半沢直樹の妻は、やはり男の理想なのか?
私は、30歳後半の女性です。高視聴率を取って話題となったテレビドラマ『半沢直樹』に出てきた妻の花は、やっぱり男の理想なのでしょうか。結婚を機に自分の仕事を辞め、夫が外で安心して働けるようにしっかり家庭を守り、夕食には毎日おかずを何品も用意して待っている。こういう妻が、男性の理想像なんですか? 教えてください。
男の都合が透けて見える「良妻ブーム」
清田 「良妻ブーム」が来てるのか、最近、半沢直樹の妻の話題をよく耳にするね。
佐藤 ドラマを観ていたけれど、何かもう、ファンタジーみたいな感じの奥さんなんです。自分の意見もきちんと言うし、「上司に絶対負けんじゃねえぞ」と励ましてもくれる。演じているのが上戸彩だから。人気になるのはよくわかる。
森田 「貞淑な昭和妻」みたいなイメージとは少し違うんだね。
佐藤 専業主婦的な役割を果たしつつ、さらに叱咤激励もしてくれる妻で。既婚者の男友達に話を聞いたら、「半沢直樹の妻が完璧すぎて、自分の奥さんがちょっと残念に思えてきた」という意見もあった。そういう、母親のような妻像が求められているのかな。
清田 実際にどれくらい求められているのかは、正確なデータでも取らない限りわからないけれど、そういう妻像をメディアが好意的なものとして扱っていることが気になるなあ。
佐藤 結婚したロンドンブーツ1号2号の田村淳さんの奥さんもそうだよね。仕事を辞めて、元モデルで、家事がうまくて、従順で、淳が浮気したら「一緒に反省する」という。何か出来すぎてて、ちょっと気持ち悪さすら感じるけれど、メディアでは概ね「理想の妻」という扱い。
清田 ジブリ映画『風立ちぬ』のヒロイン・菜穂子にも同じニオイを感じる。彼女は自分の病気を顧みずに恋人の元へ来るんだけど、病気が重くなると、黙って一人でサナトリウムへ戻っていく……。「夫に迷惑をかけたくなかったから」とか、「衰弱していく姿を彼に見せたくなかったから」とか、戻った理由はいろいろ推測されているけれど、「命を賭けて夫への愛を貫いた妻」という礼賛の声はホントに多い。
森田 気になるのは、その「描かれ方」が男にとって都合がよすぎるところだよ。
佐藤 花と菜穂子は作品の中の人物だし、田村淳さんの奥さんも、テレビ番組だから演じている部分があるのだと思う。だから、フィクションとして「すごいなあ」と眺めるのはいいと思うけれど、今回の相談者さんのように、「これが男の理想…」とプレッシャーを感じてしまう女性がいることは問題だと思う。
清田 そうだよね……。この「良妻ブーム」に悩まされる女性は、おそらく「そうなれない自分はダメなのか」という苦しみと、「どうせ男はああいう女が好きなんでしょ!」という怒りを抱えているような気がする。
「女子力」とは、男の理想に合わせる力!?
森田 こういう妻は、本当に「男の理想」なのかな。個人的には違和感しかないんだけれど……。「男は外で稼ぐもの、女は家に入るもの」というような、昭和っぽい価値観を引きずっている感じに嫌悪感すら抱く。俺と似たような違和感を持つ男子も多いと思うんだけど。
清田 自分も概ね同感です。
森田 個人的には、結婚したとしても相手には社会とつながっていてほしいと思う。もちろん楽しいことばかりじゃないだろうけれど、仕事は続けた方がいいと思うし、趣味でもボランティアでもいいから、好きなことをしいてほしいなと思う。
清田 それに、仕事を辞めてしまうことって、「離婚したくてもできなくなるリスク」を背負うことでもある。最初から離婚を考えて結婚する人はいないだろうけれど、「最終的には自分で食っていける」という選択肢は持っておいて損はないと思う。実際問題、収入面を考えても共働きじゃないとやっていけそうにないって事情もあるけれど……。
佐藤 でも、「できれば専業主婦として家にいてほしい」と望む男が多いことも確か。「家でご飯作って待ってくれる人がいるっていいじゃん」という。
清田 専業主婦を望む男の裏には、自分の都合が見え隠れしてるような気がする……。仕事を辞めてほしいというのは、「妻には自分の知らないところで行動をしてほしくないから」とか、家庭を守ってほしいというのは、つまり「家事や身のまわりの世話など、自分をケアしてほしいから」とか。
佐藤 「家で待っていてほしい」と望むのは、子どもが母親に「お帰りなさい」と言ってもらいたいという気持ちと似ているような気がする。
森田 ちょっとひねくれた見方のような気もするけど(笑)。
清田 以前、「自分には女子力がない」と悩む女性から相談を受けたときと、今回のケースは通じるものがあるような気がする。女子力は、「がんばれば身につくもの」というイメージがあるじゃない?
森田 そうだね。「力」と言うくらいだから。
清田 例えば「理想の妻は上戸彩です」と言う男がいても、誰も上戸彩にはなれない。「勝手に言ってろ」と笑い飛ばせる。でも、「半沢花のような妻が理想」という言葉には、「がんばればなれるだろ」という無言の圧力が含まれてくる。だから、「そうなれない自分は努力不足なのか……」という発想が生まれるんじゃないかな。
佐藤 それこそロンドンブーツの田村淳さんの妻は、「美人なのに努力を惜しまないスーパー奥さん」みたいな扱われ方だもんね。
清田 料理がうまくて、家事も完璧で、聞き上手で、床上手で、ダンナの親とのコミュニケーションもお手のもの……。もしもこういうものを女子力と呼ぶのなら、要するに「男の都合に合わせる力」ということじゃない。そこに向かって努力しなくてはいけないと思うこと自体、苦しいと思う。
森田 代表、今日は何だか語気が強めだね。
佐藤 ただ、そういう努力は何も男のためだけにやっているとは限らないよね。妻としてレベルアップしていく快感のためかもしれないし、人に褒められることがモチベーションになっているのかもしれない。フェイスブックに「理想の夫婦」像をアップすることがモチベーションになっている人もいるかも。これは価値観の違いだから、そういうことができない人が劣っているというわけでは全然ない。
森田 「ジャンルの違う人」くらいに思えればいいよね。
高学歴・高収入の女性が敬遠されるわけではない
日経ウーマンオンライン編集部 「良妻ブーム」の話題に関連して、高学歴・高収入の女性から、「男性は自分のような女性がイヤなのでは?」という質問がありました。男性としては、自分よりバリバリ働いて、自分より収入が多く、家事に費やす時間がない、という女性は敬遠しますか?
清田 そんな……、むしろ「頑張って」と応援したいくらいですよ。
佐藤 でも、そういう女性に負い目を感じる男は確かにいるかも……。男のコンプレックスやジェラシーは、結構根深いですから。
清田 でもそれは、女性にとって悔しいことでしょう。高学歴・高収入は、努力を積み重ねてきたからこそ得られているもの。なのに、男が選ぶのはいわゆる女子力が高そうな人ばかり……。もしもそんな気分になっているとしたら、自分の積み重ねたきた努力も肯定できなくなるかもしれない。
森田 それはしんどい。ただ逆に、「半沢直樹の妻を理想とするような男に『選ばれ』たいんですか?」と女性に聞きたいんですよ。
清田 確かにそこは、じっくり聞いてみたい部分。家にいてくれる妻を求める男は高学歴・高収入の女性を敬遠するかもしれないけれど、そういう男と一緒になって、幸せな結婚生活が送れるのか。もっとも、好きな人やつき合ってる彼氏が、良妻を求める男だったら問題は複雑だけれど……。
佐藤 半沢直樹の父親は、銀行に融資してもらえなかったことが原因で自殺してる。半沢は銀行への復讐心を抱えて生きているけれど、それを花には話していない。花が疑問を抱いても、「何も心配しなくていいんだよ」と頭をポンポンと叩くだけ。それで、花は気になって義母のところへ真相を聞きに行く。
森田 うん。
佐藤 これは「自分から弱みを見せたくないが、妻が機転を利かせて、俺の苦しみを察してくれ」という願望の表れだと思う。「半沢直樹の妻を理想とする男」とは、つまりそういう男だよ。子どもに「お前は何も心配しなくていいよ」というのと同じで、「お前は妻なんだから、何も知らなくていいんだよ」と言うようなものだよ。
清田 「でも察してね」というのがつくだけに、タチが悪い(笑)。現実世界で半沢直樹のような秘密を抱えている男がいたとしたら、その秘密、絶対別の女性に話していると思う。生き方を左右するほどの大きな苦悩を、黙って抱えられるほど強い男なんてほとんどいないでしょ。妻に言わないってことは、浮気相手にこぼしてる可能性が高いんじゃないかな。カッコつけるってしんどいことだもの。どこかで癒してもらってる気がする。
佐藤 浮気の大義名分になりそうだね。こんな辛い話を妻にしたら、妻は悩むだろうから、浮気相手に話すという。
清田 何かもう、完全に言いがかりみたいになってますね(笑)。もちろん、半沢直樹に恨みは一切ありませんよ。
(日経ウーマンオンライン編集部)
[nikkei WOMAN Online 2013年10月18日掲載]
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