終末の段取りをノートに… なかなか筆が進まない定年男子の終活見聞録

感謝すべき大切なものも見えてくる

多くのエンディングノートが出版されている

どれもこれも難題だ。すぐには考えがまとまらない。「書く前に、まずは家族と相談してみよう」ということにした。「ノートは避けていた問題を話し合う糸口になる」。本田さんによると、これもノートの効用なのだという。

自分史の部分を書き進めながら、家族の間でも知らないことが結構多いのではないか、と思い始めた。自分が何を考えてどんな仕事をしてきたのか、詳しく話したことはないから、家族にもおそらく正確には伝わっていないだろう。生まれた時のこと、学生時代、新入社員時代、結婚前後、子供の誕生時の思い出なども書き残しておけば、残った者はきっとうれしいに違いない。これまでを振り返ることで、今の自分にとって感謝すべき大切なものも見えてくる気がする。思いのこもった最後のプレゼントになるだろう。

残りの空欄、じっくりと考えながら埋めていこう

遅ればせながら、昨秋公開された映画「エンディングノート」を見た。定年退職後、がん告知を受けて69歳で亡くなるまでの父の日常を、娘が撮影した記録映画だ。「仕事は段取りが大切」が口癖だった主人公は、告知後「死に至る段取りは人生最後の一大プロジェクト」「最期をデッサンしておかないと家族が困る」とつぶやきながら、まずエンディングノートの作成にとりかかる。

半年後、すべての段取りをノートに書き終えて主人公は亡くなる。元気なころは、仕事いちずの夫と妻との間がぎくしゃくする時期もあったようだが、最後は「愛している」「一緒に行きたい」と言葉を交わす。悲しいながらも、何かホッとさせられる場面ではあった。

経済産業省が今春まとめた調査では、エンディングノートを「いずれ書くつもり」と答えた人が、65~69歳で53.4%いたが、「既に書いてある」は0.8%にすぎなかった。私のノートも空白部分が多いままだ。ただ、残された時間はまだしばらくあるだろう。じっくりと考えながら、空欄を埋めていくことにしよう。

(森 均)

森均(もり・ひとし) 1947年京都府生まれ。日本経済新聞の社会部記者、編集委員を長く務める。家庭を顧みない「仕事人間」だったが、定年退職以降は「家庭人」を目指して奮闘中。2012年4~5月には日本経済新聞電子版に「定年男子の料理教室」を連載した。

※「定年世代 奮闘記」では日本経済新聞土曜夕刊の連載「ようこそ定年」(社会面)と連動し、筆者の感想や意見を盛り込んで定年世代の奮闘ぶりを紹介します。

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