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元塾講師が見た学校現場

~ママ世代公募校長奮闘記(11) 山口照美

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民間人校長として現場に行く以上、何らかの「得意分野」を持って学校運営に貢献しなければならない。教師経験から来る指導力において、私は現場のベテラン教員や教頭先生にかなわない。今は運動会の準備中だ。できるだけ、私と教頭先生の2つの目でチェックをするようにしている。

教頭先生は「教員の学級を引っ張る力」を確認し、アドバイスをする。私は子どもたちを褒めることで、全員のモチベーションを上げる。どうすれば、カッコイイ子どもたちを見てもらえるか。そして褒められた子どもたちが達成感を味わえるか。同時に、安全面に関して気を配っている。

教育に関する、私の得意分野は「自立学習の定着」と「小中連携」だ。子どもたちに学習習慣をつけさせ、繰り返し演習を行い、受験当日に力を発揮できるようサポートしてきた経験を、公立小学校でどう生かすか。また、小4から中3を一緒に教える塾だったため、「中1の壁」をリアルに感じてきた。その先にある高校受験についても、経験がある。

全国学力・学習状況調査の結果が取り沙汰される今、いくつか気づいたことを取り上げたい。

公立小学校が育てている、大切な力

受験業界の最先端にいながら、「学力」の定義に疑問を抱いていた。成績には現れない能力、よく事務室で語りあっていた「彼は世界中のどこに行っても生きていけるやろなぁ」という能力である。

塾を辞めてから独立し、コンサルティングや広告の業界で生きてきた。そこには多くの「商才」を持った人間に出会った。学歴も、偏差値も関係ない。時代の先を読み、企画を立て、人を巻き込むプレゼン力とコミュニケーション能力を持ち、リスクを回避する冷静さや判断力を持つ経営者に多く出会った。この能力の全てを持たなくてもいい。補いあって仕事をするための、「人をつなぐ力」を持つ人にも多く出会った。

教育の最終目的は、子どもたちに幸せな人生を送ってもらうことだ、とある校長が話していた。私もそう思う。では、幸せな人生とは何だろう? 高校生に向けた進路講演では、チャップリンの言葉を必ず紹介していた。「人生に必要な物は、想像力と勇気と少しのお金」。「想像力」は「愛」と訳されていることも多い。相手を思いやる心豊かさ、困難に立ち向かう強さ。同時に、経済的な自立が目標の1つであることは、外せない。

彼らが幸せな人生を送るために、必要な思考力や表現力を育てる。その点で、公立小学校の授業は工夫されていると思う。子どもたちの発言を促し、お互いの発言から思考を広げていく。また、お互いの「いいところ」を認め合う場にもなっている。小学校が育てているこの力は、すぐに結果が見えるものではない。だが、生涯にわたって基盤になる大切なものだ。

特に日本の小学校は、学級活動や行事の中で子どもの能力を引き出している。アメリカの小学校では掃除を児童にさせずに、業者を入れている。それでは、公共意識や衛生観念が育ちにくい。日本では給食や掃除も、重要な教育だ。

できない、わからない苦痛に気づいてほしい

一方、結果が見えやすい「テストを突破する能力」としての「学力」はどうだろう。

算数の教科書・計算ドリル・副教材による問題演習+担任が配るプリントを見ていると、トレーニング量は確保されている。きっちりやれば、力がつくだけの教材になっている。課題があるとすれば、宿題に取り組む姿勢や理解不足にある。雑にやった「こなす」だけの宿題には意味がない。

さらに、前提として「わかる授業」は必須だ。塾はある程度、成績や志望校によってクラス分けをしているため、指導しやすかった。そもそも、授業を受ける以前の課題を抱える子どももいる。それでも、子どもたちを引き込み、理解させ、できた! と感じさせる授業をしなければならない。難題だ。

教師としての技術はさまざまあると思うが、私が最も大事にしているのは「子どもの心理に気づく力」だ。

塾の校長を任されていた時、講師採用や育成は自校で担当する仕組みだった。本部から来た履歴書を見て連絡を取り、面接をして授業を見てもらい、課題を与えて模擬授業を数度行う。阪大や京大の学生は、講師としては不適格なことが多かった。なぜなら、彼らは「わからない子どもの気持ちがわからない」からだ。言葉のレベルを小学生に合わせられない。「わかりましたか?」の一言で、次に行ってしまう。そんな質問で、子どもの理解度は測れない。

説明を聞いている時の表情、問題演習で止まっている手、テストでの間違いから気づいてほしい。なかなか、人は自分ができることについて「できない人」の気持ちはわからないものだ。

私は小3の時、親の都合で2回転校した。おとなしかったこともあって、特に教師に気に掛けてもらった記憶はない。算数はカリキュラムのズレもあって、分数がわからないまま座っていた。宿題は答えを写し、その場をしのいでいた。授業はちっとも頭に入らず、空想の世界に浸っているか、国語の教科書を何度も何度も読み返していた。

塾でも学校でも「昔の自分」を見かけると、よし、何とかしてやろうと思う。人前で手を挙げて「わかりません」が言えず、悩む子どもはたくさんいる。そっと近寄り、机の横にしゃがみ、問題をスモールステップに砕いて1つずつクリアさせる。「できるやん!」と褒める。

少人数・習熟度別の指導の先生がベテランなので、その点は安心して任せている。私も、空いている時には積極的に教室に入っている。

「家庭学習」ではなく「自立学習」へ

宿題の指導は、家庭でフォローしてほしいという本音もある。家でやって来られず、居残りで宿題をしている子がたくさんいる。運動会前で担任が忙しく、校長室や職員室前が即席の自習室となることがある。職員室の番をしながら、宿題をチェックする。

このサポートを「当たり前」と思われると、辛い。人手が足りないからしんどい、という面もある。それ以上に、手取り足取りでフォローを続けていると、中学に行って子ども自身が困る。卒業時には「自分で宿題ができる」「授業でわからないところを調べる、質問することができる」「携帯やゲームの誘惑を振り切って勉強できる」中学生にして送り出したい。

現場に来て痛感するのは「学力以前の課題」を抱えている児童が多いことだ。授業を受けて理解するには、十分な睡眠に裏付けられた体力がいる。それなのに、夜遅くまでゲームや携帯いじりで寝不足、朝ごはん抜きで学校に来られると、どれだけ教師がいい授業をしても届かない。

以前このコラムで紹介した養護教諭の岡部先生が中心となり、あの手この手で「早寝・早起き・朝ごはん」を子ども自身に意識させるよう、取り組んでいる。

そうは言うものの、我が家でも22時過ぎになる日が多く、まったく偉そうに言えない。テレビでジブリのアニメが21時から始まり、自分の時間ほしさについ夜更かしを許してしまった時など、自己嫌悪でいっぱいになる。甘やかす意味の「子ども優先」ではなく、彼らの心身を育てるための「子ども優先」を貫くには、親自身が誘惑に勝つ力が必要だ。子どもによって、親も育てられるのだと感じている。

生活習慣の課題をクリアすると、次に「学習規律」の課題がある。時間を守る、忘れ物をしない、人の発言を集中して聴く。学校に来るのがやっとという児童には、これまた難問だ。公立小の先生達は、本当に粘り強い。「40人学級で学力向上」を求めるのは、かなりハードな注文と言える。

もう一度、整理しよう。

公立小学校の目標は、まずは全員が「ゴキゲンに学校に来て、ゴキゲンで帰ること」。自分は受け入れられている、学校が好き、仲間がいるという喜びに満ちた学校を作ること。

次に、知的好奇心を満たし、膨らませ、中学につながる「勉強の仕方」を身につけた子どもたちを育てること。

そのために担任の授業の力を、特に先ほど触れた「子どもの『わからない』に寄り添える先生」を育てる必要がある。個別の能力差に気づいた上で、集団授業をどう組み立てるか。塾講師時代の想像を超えて、学校現場は厳しい。

学力テストの県別や学校別の結果より大事な、1人1人の達成すべき目標がある。塾にいた頃、「難関校合格者数NO.1」より「第1志望合格率NO.1」の方がいい塾だと思っていた。難関校に合格した生徒以外は数に入れてもらえない塾ではなく、それぞれがレベルや個性に合った、行きたい学校に行ける塾。

学校に置き換えれば、今日の「できた!」はそれぞれ違っていい。仮にできなくても、挑戦した姿勢を褒めたい。運動でも挨拶でも、一つ自信がつけばまた一つ、がんばってみたくなる。その延長線上に、学力向上がある。その道のりは単純ではない。

まずは運動会。

子どもたちが褒められる場になるように、しっかりバックアップしたい。

みんな、がんばれ!

山口照美(やまぐちてるみ)
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中

(構成 日経BP共働きプロジェクト・日経DUAL編集部)

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