旬の話題を「噺」に仕立て、巧みな話術で引き込む
~噺家が闇夜にコソコソ
落語家たちが1人ずつ、話題のニュースを独自の目線で話して聞かせる。自らが取材に足を運び、報道されていない新事実を明かにしていく。和服姿の男性が正座で並んでいる光景が物珍しく、バラエティーらしからぬ雰囲気にまず目がいく。そのうちに、話す内容の面白さに加えて、お笑い芸人とは一味違う話術に引き込まれる。
『噺家が闇夜にコソコソ』は、2013年の年末に深夜の特番として放送された。視聴率はそれほど振るわなかったが、新しいタイプの番組ということで局内での期待の声が高まり、この春に深夜帯でレギュラー化した。この番組を企画した理由について、「僕が落語が好きだから」と、プロデューサーの赤池洋文氏は話す。「せっかくバラエティー番組で笑いの仕事に携わるのだったら、一度は落語を見ておこう」と、社会人になってから落語会に足を運んだのがきっかけだった。
「古典を学ぶぐらいの気持ちで行ったところ、予想に反してごく自然に笑えたんです。落語ファンを除き、この人たちが一般的には無名というのはもったいないと思いました」(赤池氏)
演芸番組はあるものの、落語家が主役のバラエティーは、現在は『笑点』(日テレ系)しかない。「いい武器を見つけたな、という感覚がありました」と赤池氏。認知度の高いタレントが出ていなくても興味を持ってもらえる旬のニュースをテーマにし、彼らの魅力を最大限に生かすために、その話題を「噺(はなし)」に仕立ててプレゼンしてもらうことを考えた。
「芸人さんが常に新ネタを作ることに重きを置くのに対して、落語家さんは、新作落語を作ることはありますが、噺の筋が決まっている古典落語を、いかに面白く、感動的に伝えるかを競っているわけです。よく言われる、"立川談志の『芝浜』はいいね"っていう感覚は、僕が見てきたお笑い界ではなかったものでした。規定演技で誰よりも優れているのが落語家さん。伝達能力のすごさを際立たせたいと思ったんです」(赤池氏)
ニュースを誰よりも面白く
例えば、80歳でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎氏のニュースは、一緒に登った長男の雄大氏に取材。担当した林家彦いちには、「高地に適応するために、ベースキャンプに1カ月ぐらいいなきゃいけないので、意外と暇らしいですよ」という情報をあらかじめ伝えた。実際に彦いちが雄大氏に話を聞くと、「ドラクエはやってるわ、アマゾンで買い物はしてるわ(笑)」、次々と面白い話が出てきた。そこを抽出して噺に落とし込み、放送では、プロの話術で一気に笑いに引き込んだ。情報だけに留まらない、VTRで見るのとは違う魅力がそこにはあった。
司会は、昨年に鈴木おさむ作・演出の舞台『The Name』で意気投合した今田耕司と立川談春の同い年コンビに、壇蜜が加わる。レギュラー陣は、前述の林家彦いちのほか、『とくダネ!』(フジ系)にも出演している立川談笑、毒舌が持ち味の桃月庵白酒(とうげつあんはくしゅ)、若手No.1と言われる春風亭一之輔ら。
「"松本潤もいるし、小栗旬もいる"といえるぐらいの、希代のスターを厳選した感じなんですが、今のところ伝わっていないだろうなというのは承知しています(笑)。この番組を通して知っていただければ」(赤池氏)
放送は深夜のため、30代40代をメーン視聴者に考えながらも、「10代や20代の若い層の方に見ていただけたら特にうれしい」(赤池氏)。出演者、内容ともに年配層とも相性がいいため、ゴールデンタイムでの特番を視野に入れて、番組を育てていきたいという。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2014年5月号の記事を基に再構成]
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