戦隊モノ、アイドル…、グループにおける色と役割の関係
日経エンタテインメント!
グループを構成するメンバーを個々に見たとき、重要なのが「キャラクター分け」だ。同じタイプのキャラクターがカブっていては、目立つどころか、共倒れになる可能性が高い。優秀なグループほど、キャラ分け・役割分担にムダがなく、結果としてグループにしか出せない「大きな力」が生まれるともいえる。
その「キャラ分け」において、欠かせない役割を果たしているのが「色」だ。リーダーシップを発揮する赤。クールで英知を感じさせる青。明るく元気な黄。優しくかわいらしいピンク。成長過程の若々しい緑。色彩学の分析を見るまでもなく、日本人の色彩観はこんなイメージに集約されている(表1)。これは1975年から2年間放映された特撮ドラマ『秘密戦隊ゴレンジャー』(テレ朝系)の影響にほかならない。性格を象徴する色分けキャラクターをこの番組が作ったのだ。
■マンネリ化に見せない工夫
その色彩観は毎年子どもたちの潜在意識に刷り込まれてきた。2011年6月に公開された映画『ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦』では、歴代35戦隊全メンバーが登場。199名の色分けキャラがスクリーン中で入り乱れる同作が、興行収入9億円超えのヒットになったことは、世代を超えて長く受け継がれている何よりの証拠だ。
放送開始から35作のなかでは、ブラックやホワイト、バイオレット、ゴールド、シルバーといった新色を登場させる変化を遂げてきたものの、前ページの表2からも分かるとおり、赤・青・黄の3色はほぼ固定化されている。マンネリ化しそうなものだが、そうならないための工夫も施されている。
大前提にあるのは、「同じ色の組み合わせが2年続かないようにしていること」(東映専務・鈴木武幸氏)。同じ場合は、「ピンクだけど実質的なリーダー」(2000年『未来戦隊タイムレンジャー』)のように、キャラづけの部分で違いを見せている。
また、「ブルーの女性戦士」のように、色の持つ一般的なイメージを大胆に変えることも。「食いしん坊で力持ちの男性」というイメージが強いイエローは、1984年に女性戦士のカラーとして登場して以降、いまでは「女子キャラカラー」として定番化しつつある。
■ジャニーズメンバーのイメージカラー
こうした色分け方法論は、日本のグループ・エンタテインメントにおいても、散見できる。
例えばジャニーズ所属のグループは、各メンバーのイメージカラーが存在する。厳密にいえばその多くは事務所がアナウンスしておらず、固定の公式カラーでなかったりするが、演出上身につけた色が、そのままファンの間で"公式化"しているケースが少なくない。
関ジャニ∞は、毎年のようにコンサートで戦隊物をコンセプトにしたコントを披露。メンバーカラーのイメージがあまりないV6でも、「赤・青・黄の三原色系は年少組のカミセンで、年長組のトニセンは地味になりがち」と、かつて井ノ原快彦が日経エンタテインメント!誌の連載で明かしている。
ただしジャニーズにおける色分けは、スーパー戦隊モノとは目的がやや異なる。彼らの場合、厳密なキャラ分けというより、目印的な意味合いが強い。コンサート会場が巨大な彼らは、観客に見分けてもらう手段の1つとして衣装の色を活用しているのだ。そのため、ファン以外の一般にはあまり伝わっていない色分けだったりする。
女子グループの色分け
多人数女子アイドルグループにおいて、色分けが明確なコンセプトとして施されているのは、ももいろクローバーZとぱすぽ☆が代表格だろう。
そのぱすぽ☆は10人編成。言い換えれば『ゴレンジャー』の倍だ。すると色分けは、白・赤・橙・水色・黄・黄緑・赤・緑・紫・ピンクと、まるで色鉛筆のセット。そこにはカブリ感が漂う「青と水色」「緑と黄緑」といった同系色の濃淡違いも存在する。この10人の色分けについて所属レコード会社の担当者はこう明かす。
「色分けは10色が限界です(苦笑)。同系色については、例えば緑の子は顔が濃い目だけど、黄緑の子は地味め。水色の子は小柄でロリっぽいけど、青色の子は大柄といったコントラストを考えて決めました」(ユニバーサル・福田幹大氏)
インディーズ時代のももいろクローバーZを手伝っていた経験も持つ福田氏は、「色分けの原点はスーパー戦隊物」と断言する。ぱすぽ☆の場合は、メンバーの性格や容姿を考慮したブログのファン投票で各々の色が決められた。衣装も徹底して色分けしており、その利点は数多い。
例えば全国のショッピングモールなどで行なわれるイベントの際、一般のお客さんはメンバーの名前を当然知らない。誰かと歩いていて偶然ステージを見ても、「あの髪の長い子かわいいよね?」「え、どっち?」「じゃいいや」と、共通の話題として成立しにくい。しかし「あのピンク」と色で呼べれば、会話も弾むというわけだ。
「メンバーが多いと、衣装を着替えるときにも間違いがなく、楽になります」(福田氏)
あらゆる意味で、色ほど日本人に浸透している分別記号はない。時代の変遷とともに各色が示す意味合いに変化は見られるが、固定観念や先入観にまで到達した記号論は、今後も有効なはずである。
グループ色分けの源流になっている戦隊シリーズの最新作『海賊戦隊ゴーカイジャー』は、過去34戦隊に変身できるという設定だ。色分けキャラクター文化は、まだまだ進化し続けている。
(ライター 市川哲史、日経エンタテインメント! 木村尚恵)
[日経エンタテインメント!2011年9月号の記事を基に再構成]
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