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春に咲くはずの桜が秋に咲く理由 気象予報士 伊藤みゆき

2012/10/31

 秋を代表する花の1つコスモスは「秋桜」と書きます。文字通り、桜のように美しいコスモスですが、地域によっては今がまさに見頃というところも多いのではないでしょうか。

 一方、コスモスではなく、「ホンモノの桜」が今、あちこちで咲いているのをご存じですか。春に見られるあの桜が秋にも咲いているのです。

 この時期に桜が花を咲かせるのは、葉が落ちてしまった桜の木という共通点があります。通常なら、開花後の桜は緑色の葉で覆われ、秋の深まりとともにその葉が赤や黄色に色づき始める時期ですが、今年は、葉がほとんどついていない桜の木が見受けられます。実は、季節外れの桜の開花にはこの「葉っぱ」の状態が重要な鍵を握っているのです。

10月15日に東京都内で見られた桜

 桜は本来、夏の間に翌春の花芽を作ってから休眠に入ります。このとき、花芽には、葉で作られ、花芽に届く「休眠(成長抑制)ホルモン」によって、咲くことを「待て」の状態にされているのです。そして、葉が落ち、冬の寒さで休眠から目覚め、次第に春の暖かさを感じて、つぼみが成長して開花を迎える、というサイクルです。

 ところが、夏に何らかの原因で葉が落ちてしまうと、継続的に花芽に届けられる休眠ホルモンが十分に届かなくなってしまいます。そして、夏の終わりを告げる涼しさを冬と間違え、その後再び気温が高くなると「あ、春が来た」と勘違いしてしまうのです。すると、開花までのサイクルが早まり、秋に花を咲かせてしまうことがあるのです。

■季節外れの開花「不時(ふじ)現象」

 この季節外れの開花は「不時(ふじ)現象」として気象台でも記録をとっています。どのくらい季節が外れると不時現象になるかは、「各気象台において、もっとも早い観測日より概ね1カ月早く、最も遅い観測日より概ね1カ月遅いことを1つの目安にする」という指針があります。不時現象の原因は様々です。葉が強風で引きはがされたり、害虫や天候不順で枯れ落ちてしまったり。気象台の人にお聞きしても、一つに限定するのが難しいとのことでした。

 2006年には、10月12日に長崎・下関、10月18日に佐賀、10月21日に鹿児島でソメイヨシノの開花を観測していますが、これは原因が断定され、いずれも「台風の影響」との文言が添えられました。その原因とされる台風が2006年の13号のようです。台風13号は強い勢力を保ったまま沖縄や九州に接近、9月17日18時過ぎに長崎県佐世保市付近に上陸しました。17日の昼過ぎから夕方にかけて九州全域が暴風域に入り、佐賀の気象台で50.3メートルの最大瞬間風速を観測するなど各地で暴風による被害が相次ぎました。また、「塩害」も広範囲に及びました。海水を含んだ暴風雨にさらされた後、塩分を流し落とすまとまった雨が無かったことで、多くの木々の葉が赤茶けたり枯れたりしたのです。各地の気象台の桜の標本木も同様に、この台風の風や塩害の影響を受けてしまいました。

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