春に咲くはずの桜が秋に咲く理由気象予報士 伊藤みゆき

今年(2012年)、東京で秋に桜が咲いた原因はなんでしょうか? 気象庁(東京・大手町)の今夏の天気をさかのぼってみると、8月は137年間の観測史上3位となる暑さ(月間平均気温が29度1分)、降水量は同8位の少なさ(月間合計25ミリ)でした。暑くて雨の少ない8月だったのです。9月に入っても厳しい残暑が続く中、街路樹などの木々の葉が弱ってきているように見受けられました。ようやく平均気温が25度を下回るようになったのは、お彼岸に入ったあとでした。ところが、9月30日と10月1日に台風17号の接近・通過で暑さがぶり返したのです。このように気温や降水量の面から、夏の暑さと水不足で葉を落としてしまった桜の木が、いったん涼しくなったあとの暑さで、季節を勘違いしてしまったと推察できます。

私は近所の桜の木が9月の初めには葉を落としてしまったのを見て、「これは秋に咲くかも」と枯れた枝を日々見張っていました。すると、10月3~4日に20輪くらい咲いたのです。

このように、桜の季節外れの開花は、「何らかの理由で葉が機能しなくなり、十分な休眠ホルモンが花芽に届かない」、かつ、「一度涼しさがおとずれた後に春のような暖かい日が何日か続くこと」の2つの条件下で生じるようです。もちろん、不時現象が起きてしまっても、その木の桜は来春に楽しむことができます。1本の木の一部で早咲きしてしまった桜は春には咲きませんが、まだ、全ての花芽が目覚めるような本当の冬が来ていないので、その木のほかの花芽は休眠ホルモンが少ないながら冬を越して、春には花を咲かせてくれますよ。

桜は春だけでなく秋の紅葉でも街を彩ってくれますが、残念ながら紅葉を前に散ってしまった「早枯れの木」は、「季節外れのお花見」というサプライズをくれるかもしれません。もし、近くに早枯れの木があったら、枝先に花を探してみてはいかがでしょうか?

伊藤みゆき
気象予報士。証券会社社員を経て、気象予報士に。日本テレビ衛星「NNN24」の初代気象キャスターに合格。現在はNHKラジオ第一「ラジオあさいちばん」気象キャスター。 光文社の雑誌『STORY』などで連載を持つなど、幅広く活動中。

[nikkei WOMAN Online 2012年10月18日掲載]

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