食の偽装で見えてきた「産地ブランド」の限界(加藤百合子氏の経営者ブログ)

昨年大きな問題になった「食の偽装」の余波なのでしょうか。出所がしっかりした安全安心な食材を手配してほしいという、食品関連企業から当社への問い合わせが増えてきました。こちらからの営業も快調で、1月はある総菜大手にワサビの茎を納めたほか、今月は別の総菜大手との新タマネギの取引がまとまりそうです。

加藤百合子(かとう・ゆりこ)1974年千葉県生まれ。東大農学部で農業システムの研究に携わり、英国クランフィールド大学で修士号取得。その後、米航空宇宙局(NASA)のプロジェクトに参画。2000年に帰国しキヤノン入社。2001年、結婚を機に退社し静岡に移住。産業用機械の研究開発に7年ほど従事したものの農業の社会性の高さに気付き、2009年エムスクエア・ラボを設立。2012年青果流通を変える「ベジプロバイダー事業」で日本政策投資銀行第1回女性新ビジネスプランコンペティション大賞受賞。

一部の農業生産者には「本物特需」が起きているようです。富山県のユズの産地の話。その地域は特産ユズを使った菓子や飲み物を町おこしの売り物にしているのですが、当のユズ農家さんは「そのわりには売れないな」と長年感じていた。そうしたら、産地の虚偽表示があちこちで明るみに出た昨年後半から「言い値でいいから、とにかく売ってくれ」という顧客が急増。今は笑いが止まらないそうです。

これとは逆に困った話も聞きました。

品質にこだわることで有名な精肉会社「さの萬」(静岡県富士宮市)が先ごろ、委託先の養豚業者を代えました。それまでは静岡県の業者に「こうした餌で、こういった育て方をしてほしい」と細かく注文をつけて豚を飼育してもらっていたのですが、様々な理由でさの萬が求める高い品質を維持するのが難しくなり、早急に代わりが必要になりました。

全国を探し回ったところ、神奈川県と宮崎県の養豚業者が特別注文を受けてくれて、「これで従来通りの豚肉の品質を維持できる」とホッとしていた矢先……。ある得意先が取引停止をちらつかせてきたのです。理由は「静岡県産でなくなったことで消費者から産地偽装を疑われる」でした。

こうした最近の話を見聞きして、農作物・畜産品の産地名のブランド化には限界があるのではないか、との思いが強くなりました。食品がいつ、どこで作られ、どのような経路で食卓に届いたかという生産履歴を明らかにする、いわゆるトレーサビリティーを確立する上では、産地名は絶対に欠かせない情報なのですが、これはデータとして重要なのであって、消費者の購買意欲を刺激する「売り口上」としては、どうにも信ぴょう性に欠くような気がするのです。

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