とはいえ、ただ愚痴を言っているだけでは問題は解決しません。まずは心の揺れをもたらすストレスの「正体」について解説します。
「職場の人間関係でストレスがたまっている」「仕事のストレスが原因で部下がうつ病になった」──。
私たちはストレスという言葉を日常的に使っているが、その意味を正しく理解している人は少ないのではないだろうか。
■ストレスは人生のスパイス
精神科医で、大阪樟蔭女子大学で心理学を教える夏目誠教授は言う。「ストレスは常に“悪者”で、不要な存在だと思っている人がいるかもしれませんが、それは誤解です。ストレスの概念を提唱したカナダの医学者ハンス・セリエ博士は、ストレスを次のように例えました。『ストレスは人生のスパイスだ』と。スパイスの過剰摂取は健康に良くないが、一方でそれを全く使わない料理なんて食べられたものではありません。スパイスが料理にアクセントや変化をつけるのに欠かせないように、ストレスもまた刺激ある人生に送るために、なくてはならない存在なのです」。
定年退職後の男性がメンタルの病になりがちな理由の1つに、それまでは仕事で受けていた刺激がなくなることがある。ストレスがないのも、またストレスになる。
ストレス負荷が強すぎるとメンタルの病になり効率が下がるのは無論だが、逆に少なすぎても効率は下がる。むしろストレスが適度にあるぐらいの方が効率が高かったりする。仕事で成果を挙げるためにも、適度なストレスは欠かせないのだ。
では、ストレスの正体とは一体何か。ハンス・セリエ博士が提唱した概念を紹介しよう。
上図をご覧いただきたい。生活や仕事上の変化によって、脳内の内分泌に影響が生じて、心身に反応が表れる。変化させる要因を「ストレッサー」(インプット)、それによって心身に表れる反応を「ストレス反応」(アウトプット)と定義した。
「当時、脳内メカニズムは分からなかったものの、一般的な病気とは異なる精神的不調などの症状や、それを引き起こす要因などを“ストレス”という概念で包括して定義したことでメンタルの病の解明が進んだ」(夏目さん)。