エンタメ!

エンタウオッチング

「非モテ・非エリート文学」はなぜウケるのか 日経エンタテインメント!

2012/9/3

芥川賞を受けた二人の小説家、西村賢太と田中慎弥の人気が続いている。受賞作ほか著作が純文学では異例の好セールスで、テレビなどメディアでも引っ張りだこだ。元日雇い工員と引きこもりという、非モテ、非エリートの小説家が、なぜブレイクしたのか。
田中慎弥 『共喰い』(集英社/1050円) 人を食ったような2012年1月の芥川賞受賞会見でその名を世に広めた。今年40歳。芥川賞受賞作『共喰い』の舞台は昭和63年。17歳の遠馬は、父とその愛人・琴子と川辺の町に暮らしていた。同級生の女子との性交にのめり込んでいくが、自らに宿る父の暴力性に気づき…。 ※ 円グラフは、購読者の男女比(全国696店舗のTSUTAYA BOOKS、蔦屋書店での購入データに基づく)を示している。
西村賢太 『苦役列車』(新潮文庫/420円) 友達もなく、希望も持たず、一杯のコップ酒と風俗通いを心の慰めに、その日暮らしの港湾労働で生計を立てる19歳の貫多を主人公にした私小説。貫多は、仕事現場である専門学生と出会い仲良くなるが、貫多の極端な言動で友情が壊れていく。2011年に芥川賞を受賞。

モテの要素がなく、世間的にドロップアウトした人生を歩み、その資質を小説にそのままぶち込んだような作家がウケている。その代表格は、西村賢太と田中慎弥。西村は中学卒業後、定職に就いた経験がなく、逮捕歴もある。田中は母との実家暮らしで高校卒業後一度も勤めた経験がない。ともに独身で、職歴もプライベートも、恵まれているとは言いがたいが、芥川賞受賞を契機にベストセラー作家へと駆けのぼった。

西村の『苦役列車』は文庫と合わせて33万部発行を記録。7月には森山未來主演で映画も公開された。一方、田中の『共喰い』は発売から1カ月ほどで発行部数は20万部を超えた。西村はバラエティーや情報番組への出演などタレント活動も目立ち、田中は芥川賞受賞会見での「私がもらって当然」発言など、ストレートな物言いが注目された。二人のブレイクはメディアでの露出が成功したとも分析できるが、今もなお読まれているのは作品に力があったからといえる。

世代別購買データによると、『苦役列車』(単行本)は10~20代が26.2%、『共喰い』は21.1%と、普段一般文芸書を買わないとされる若年層からも人気を得ている。

また、むさ苦しくて救いがなく、嫌な気分を残す小説であるにもかかわらず、女性読者を得ている点も見逃せない。私小説である西村の作品はもちろん、田中も作品に実際の体験が濃厚に反映していると思われる。己の醜く弱い劣等感を包み隠さずさらけ出すガードの低さが、男性の共感だけでなく、母性本能をくすぐるのだろうか。

■西村、田中はロールモデル?

純文学事情に詳しい文芸評論家の神山修一氏は、「両者の小説は、主体である『私』が鬱陶(うっとう)しいぐらい、はっきりしているからではないか」と分析する。

「個人的な問題を、ものすごく狭い自分の中で真剣に悩み抜いている。それは例えば1980年代の文学では比較的抑圧されていたものです。あのころは自分自身を泥臭く問い詰めるのは格好悪いみたいな空気があって、そこにタイミングよく出てきたのが村上春樹と村上龍だった。50代以降の読者にとって西村・田中の鬱陶しい『私』は、若いうちに捨て去ったものだからどこか気恥ずかしい。逆に言えば当時は『私』が希薄でも何となくやっていけた。でも、社会が失速した今はそうではない。よりどころのない中を生きているのに確固とした『私』を持っている強さに若い人は困難な人生を生き抜いていく、1つのロールモデルを見ているのではないでしょうか」

エンタメ! 新着記事

ALL CHANNEL