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「非モテ・非エリート文学」はなぜウケるのか

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 芥川賞を受けた二人の小説家、西村賢太と田中慎弥の人気が続いている。受賞作ほか著作が純文学では異例の好セールスで、テレビなどメディアでも引っ張りだこだ。元日雇い工員と引きこもりという、非モテ、非エリートの小説家が、なぜブレイクしたのか。

モテの要素がなく、世間的にドロップアウトした人生を歩み、その資質を小説にそのままぶち込んだような作家がウケている。その代表格は、西村賢太と田中慎弥。西村は中学卒業後、定職に就いた経験がなく、逮捕歴もある。田中は母との実家暮らしで高校卒業後一度も勤めた経験がない。ともに独身で、職歴もプライベートも、恵まれているとは言いがたいが、芥川賞受賞を契機にベストセラー作家へと駆けのぼった。

西村の『苦役列車』は文庫と合わせて33万部発行を記録。7月には森山未來主演で映画も公開された。一方、田中の『共喰い』は発売から1カ月ほどで発行部数は20万部を超えた。西村はバラエティーや情報番組への出演などタレント活動も目立ち、田中は芥川賞受賞会見での「私がもらって当然」発言など、ストレートな物言いが注目された。二人のブレイクはメディアでの露出が成功したとも分析できるが、今もなお読まれているのは作品に力があったからといえる。

世代別購買データによると、『苦役列車』(単行本)は10~20代が26.2%、『共喰い』は21.1%と、普段一般文芸書を買わないとされる若年層からも人気を得ている。

また、むさ苦しくて救いがなく、嫌な気分を残す小説であるにもかかわらず、女性読者を得ている点も見逃せない。私小説である西村の作品はもちろん、田中も作品に実際の体験が濃厚に反映していると思われる。己の醜く弱い劣等感を包み隠さずさらけ出すガードの低さが、男性の共感だけでなく、母性本能をくすぐるのだろうか。

西村、田中はロールモデル?

純文学事情に詳しい文芸評論家の神山修一氏は、「両者の小説は、主体である『私』が鬱陶(うっとう)しいぐらい、はっきりしているからではないか」と分析する。

「個人的な問題を、ものすごく狭い自分の中で真剣に悩み抜いている。それは例えば1980年代の文学では比較的抑圧されていたものです。あのころは自分自身を泥臭く問い詰めるのは格好悪いみたいな空気があって、そこにタイミングよく出てきたのが村上春樹と村上龍だった。50代以降の読者にとって西村・田中の鬱陶しい『私』は、若いうちに捨て去ったものだからどこか気恥ずかしい。逆に言えば当時は『私』が希薄でも何となくやっていけた。でも、社会が失速した今はそうではない。よりどころのない中を生きているのに確固とした『私』を持っている強さに若い人は困難な人生を生き抜いていく、1つのロールモデルを見ているのではないでしょうか」

また特殊な淫靡(いんび)性を描いている点にも触れ、「西村の、同棲(どうせい)していた女性に延々と恨み言を言うしょうもなさとか、田中の因果な悩みっぷりなど、他人の恥部を盗み見る、淫靡な楽しみがあります。悲惨で救いがないのに妙に笑える。自分の問題をシリアスに突き詰めているのに、おかしみがある。何も解決していないのに重苦しさから解放される感じが、読者に救いと癒やしを与えてくれるように感じます。一般的な評価ではレトロな作風だとか、昭和文学の継承者と言われていますが、実は正反対かもしれません。淫靡さが独特の軽さになった、いかにも現代的な作家でしょう」という。

非モテのひどい人生をあけすけに吐露することで、逆に調律のとれた面白さが生まれている。ある意味、西村も田中も不確かな時代に出るべくして登場した作家なのかもしれない。

生きる指針を得られる

一方で、神山氏は西村、田中以上に注目すべき非エリート小説の書き手を挙げる。

「軽いテイストに見える作家のほうが、実はブッとんでいるかもしれない。例えば、同じ芥川賞作家の津村記久子。自身が派遣社員も経験し、ワーキングプア社会の悲哀をとらえた作家だと言われていますが、実際はもっと鋭いところを突いている。彼女の小説は物語の語り手の意識が統合されていないというか、自分の置かれた状況をカテゴライズできてないんです。親に放置されている子どもを見ても、『ネグレクトだ』という風に問題化できない。ところが彼らは、そんな状態のまま、子どもを救うといった倫理的なアクションを起こす。これは整理のつかない事態に直面したとき、人はどのように対処すればいいのかという、大事な手がかりが書かれている気がします」

そして、2007年に文藝賞受賞を機にデビューし、フリーターなど若者の生活を描く丹下健太も。「彼の小説の主人公は、まず自分が置かれた状態を客観視できていない。嫌な事態をだらだらと受け入れ、爆発もできず、すべてを先延ばしにしてそれでもそれなりに楽しそうに生きている。これは今の若い世代の風景そのままとも言える。丹下は終わりそうで終わらない『何もかも奪われている』状態のこの国に、いかに立ち続けるかを物語で提示しているようにも思います」。

先行きの見えない人生を突破する指針をくれるのは、成功者の名言や人生譚ではなく、「非エリート小説」という時代がきている。

【文壇のはぐれ者、西村賢太が語る】 「ボクの仕事が途切れないワケ」

中学卒業後、日雇いの肉体労働生活を数十年。風俗好きの独身、逮捕歴あり。非エリート・非モテの人生をそのままモデルにした私小説家本人に、人気の秘密を直撃。

下流社会が蔓延(まんえん)する時代に登場した孤高の作家に、自らの創作姿勢について聞いた。

西村 5月に新刊『随筆集 一日(いちじつ)』を出しましたが、純文学作家のエッセーはなかなか売れないのに、これで2冊目なんですよ。1冊目に出版したのは芥川賞受賞前の無名もいいところでしたから、出版運はいいんですよね。干されてもう仕事が来ない版元が何社もあるのに、なんとなく本を20冊以上出せてもいますから。

僕自身は、非エリート作家の代表といわれても、ピンときません。世間では「現代のプロレタリア文学作家」とか「最下層の星」だとも語られているようですが、だいぶ誤解されているなぁと思います。自分は非エリートかもしれないけど、それを前に出しているわけではない。自堕落で、他人へのねたみを抱えた、どうしようもない人生を、私小説という「芸」で提示しているだけです。社会に対する主張はもちろん、若い人たちへ勇気を伝えようとか、そんな目的はありません。

小説で格好つけるのだけは、避けようと思っているんです。実は格好つけているんだけど、あえて野暮ったく見せたい。江戸っ子の持つ、粋好みの姿勢ですかね。間違っても「命を削って小説を書いている」とか、言いたくないですね。命を削って仕事をしているのは、皆同じ。何も作家だけじゃない。文学を熱く語る作家というのは、どうも地方出身の奴が多い。書くことが生きることだとかぬけぬけと言う輩は、田舎者の無神経さが丸出しで嫌になります(笑)。

僕が好んで読む純文学は、私小説です。作者の体験が書かれた物語にこそ、強く引かれるものがある。共感すればどこまでも読めます。逆に、創作した物語の面白さは、全く分かりません。いまの純文学作家のなかにも、観念で恋愛小説を書いている人がいますけど、何が面白いのかと思ってしまう。エンタテインメント小説の娯楽性は認めます。しかし純文学は、書き手本人の姿が濃密に投影された作品でないと読みたくないし、書きたくもありません。世間に嫌われ、他人を不快にさせてでも自分の人生を描く。それが作家の芸というものではないでしょうか。

『苦役列車』の評判が良かったのは、単純明快だからでしょう。この作品は、どん底の境遇にいる19歳の貫多の怒りとそねみの物語。ただそれだけの、シンプルな話です。純文学は意味が分からなくてもいいという、世間の錯覚を逆手にとったというか。小難しい表現で飾っていないのが、受け入れられたのではないかと思います。 純文学は難解であればよしという悪しき風潮が、今も文壇に根づいています。それもそれで結構ですが、ごく少数の純文学の読者にしか作品は伝わりません。いつまでも純文学は難解がよしとの姿勢でやっててはダメでしょう。

他の純文学作家がいまだに難解なことをやってくれているからこそ、僕のような作家にたくさん仕事がある。純文学のすそ野が広がるといいと願いつつも、ほかの純文学作家には、僕だけが得をするように、より意味の分からない一人よがりの小難しい小説を書き続けてほしいですね(笑)。

(ライター 浅野智哉)

[日経エンタテインメント!2012年8月号の記事を基に再構成]

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