スリランカのプリンは「お・も・て・な・し」のお菓子
世界のおやつ探検隊
卵を使ったぷるんとした食感のプリンは、様々な国で少しずつ形を変えて存在する。そして、味わいが日本のプリンとは異なっても、いずれも親しみやすく、どことなく懐かしさを覚えるものだ。
今回ご紹介するスリランカ(スリランカ民主社会主義共和国)の「プリン」もしかり。その名は「ワタラッパン」。お菓子を紹介してくれたのは、スリランカ南部出身の山崎シルヴァさんだ。シルヴァさんは1990年に来日し、日本人男性と結婚。12年前より、有志と在日外国人による各国料理教室を開催している。
また、彼女はスリランカの小規模校の支援や同国と日本の文化交流を図るNPO法人「ラマーミトゥルの会」の理事長も務めている。その会合のために作るスリランカ料理の1つにこのワタラッパンがあると聞き、東京・西東京市のキッチンを併設した会場にお邪魔した。会場では大勢の会員やボランティアの方々が、調理の準備をしていた。
ワタラッパンは、黒砂糖とココナツミルク、ナツメグ、卵を使ったスリランカでポピュラーなお菓子だ。「もともとは、(イスラム国である)マレーシアから渡来したマレー人が生み出したお菓子なんですよ」と教えてくれたのは、ラマーミトゥルの会に招かれていたスリランカからの留学生、アミラ・アベナヤカさん。スリランカは多民族・多宗教国家なのだが、イスラム教徒の人々はこれをラマダンの時期に食べるのだそうだ。
それでは、ワタラッパンを作ってみよう
さて、作り方はこうだ。
水に黒砂糖、少々の塩を入れて火にかけ溶かし、これにココナツミルクパウダーを追加してよく混ぜる。この液体とパウダー状のナツメグを加えた溶き卵を合わせ、耐熱容器に流し入れてカシューナッツをトッピング。そして、水を張ったオーブントレイに容器を載せ、オーブンに入れて蒸し焼きにすれば出来上がりだ。
「スリランカでは、オーブンを使わずに蒸し上げるんですよ。オーブンを持っていない家庭も多いですから」とシルヴァさん。彼女は、日本人がなるべく家庭で作りやすいように材料や作り方を考えているそうだが、「本物の味」の再現にはこだわり、黒砂糖には「スリランカのものに近い味がする」と沖縄産のものを使っていた。
焼き上がったワタラッパンをいただくと、ツルンとした食感。温かくても冷やしてもおいしいとのことだったが、ナツメグの香りが立ち上る温かいワタラッパンは、「もう1つ食べたい」とおねだりしたいぐらいの味。
実は、イスラム教徒以外のスリランカの人々にとってワタラッパンは、お客さんを家に招いたときや誕生日、結婚式など、特別なときに食べるお菓子らしい。「今日はカシューナッツをトッピングしただけでしたが、干しブドウを入れたりするなど、少し豪華なお菓子なんですよね」とシルヴァさんは説明してくれる(シルヴァさんは、国民の大部分を占めるシンハラ人で、やはり多数を占める仏教徒だ)。
普段は果物、だからこれは特別なお菓子
「スリランカでは、パパイアやバナナ、マンゴー、パイナップルといった果物を普段から食後に食べるんです。だから、お客さんがいらしたときは、果物は出しません。おもてなしをするのだから、普段の食卓とは違うものを出したいでしょ。ちゃんと手間をかけて作るおもてなし菓子の1つがワタラッパンなんです」
ちなみに、ワタラッパンは家で手作りするだけでなく、スーパーで売っていたり、レストランのメニューにも並んでいたりするらしい。
今回のワタラッパン作りには、容器として小さなココット皿を使い、1人前用のお菓子をいくつも焼き上げた。スリランカでもそのような作り方をするのかと尋ねてみると、「そうですね。陶製のカップなどを使って作りますよ。もちろん、ケーキ型などを使って大きなワタラッパンを作り取り分けることもありますけどね」とシルヴァさん。
他の国では、大きなお皿に盛ったお菓子はスプーンなどで直にすくいながらみんなで食べるケースがあったので、「スリランカはどうですか」と聞いてみると、「必ずめいめいに取り分けて食べます」とのこと。
なんでも彼女、お皿に盛った料理を取り箸を使わず直箸で取る日本人の食卓風景を見て、かなりショックを受けたらしい。「あれは、絶対にいやですね」と言う。日本人は親しい間柄では直箸で料理を取ることも多いが、これは、他国の人と同席する際は、気を付けなければいけないマナーかも。
スリランカの日常のおやつとは…
ワタラッパンが特別なお菓子ならば、「日常生活で人気のお菓子はありますか」と聞くと、「ラヴァリヤ」というお菓子を紹介してくれた。黒砂糖とココナツを合わせて作った「あん」を、米粉を原材料とする細い麺から作った「生地」でくるんだお菓子だ。
「1個2個からでも手軽に作れるので、デザートだけでなくおやつとしてもよく食べますね。屋台でも売っているお菓子です」。また、タピオカとココナツミルクを使った甘いお粥(かゆ)のような「タピオカ・プディング」も、日常のお菓子として人気だそう。
「白いお粥を作るために精製した白い砂糖を使うこともありますが、私は自然な味わいの黒砂糖の方が好きです。金色を帯びたきれいな色のお粥になるんですよ」と言う。
このお粥、大勢の人に振る舞うために大量に作るときには、水分を多くして、カップに入れてドリンクのように飲んでもらうのだそうだ。
さて、料理やデザートを作る傍ら、シルヴァさんはスリランカ流ミルクティーも作った。濃いめにいれた紅茶にミルクを合わせたものだ。スリランカは地理的にインドに近いことから、様々なスパイスが入ったインドのミルクティー、「チャイ」に近い味わいなのかと思ったら、スパイスなしのシンプルな味わい。
「スリランカでは良い茶葉が採れるので、基本的にお茶そのものを味わうために、スパイスは入れないんです」とシルヴァさんは説明する。また、ミルクティーは、スリランカでは朝食の前、朝一番に飲むものだそうで、その後はミルクを入れないストレートティーを飲むのだそうだ。
フルーツを使った「ピクルス」はいかが
最後に、デザート以外に作られた料理の中で興味深かったものを1つご紹介。フルーツを使ったピクルスだ。
パイナップルや甘い乾燥デーツが調理台に並んだので「何かのデザートに使うのかな」と思いきや、これがピクルスの材料。パイナップル、青パパイア、小粒の赤タマネギ、青唐辛子などを、ショウガやニンニク、お酢などを混ぜてペースト状にしたデーツであえるのだ。こんなところにも、フルーツが好きだというスリランカの人々の横顔が見えてくるような気がします。
7歳からおばあさんに料理の手ほどきを受けたというシルヴァさん。「おいしい料理を作って食べてもらえば、相手の人はあなたから離れられないよ」とおばあさんに言われたという。その言葉通り、故郷から遠く離れた日本の地でも料理を通じて彼女は、交友の輪を今日も広げている。
NPO法人 ラマーミトゥルの会
連絡先:東京都西東京市芝久保町3-26-13
電話:042-466-8330
ホームページ:http://lamamithuru.web.fc2.com
e-mail:lamaa.mithuru@gmail.com
[Webナショジオ 2013年9月6日付の記事を基に再構成]
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