ぼくは探検昆虫学者、仲間は「バッグマン」と呼ぶ
コスタリカ昆虫中心生活
なぜ「探検昆虫学者」なんですか…とよく聞かれる。
多くの方々は自称しているように思っているかもしれない。でも、そうではなく、ちゃんとそういう「職業」がある。昆虫学をやっている人にもあまり知られていないほどだけれど、英語でExploratory Entomologist(直訳すれば探検の昆虫学者)といい、生態系のバランスを保つために、特定の植物を食べる未知なる昆虫を探し、研究する。探検家ではなく、昆虫学者だ。でも探検昆虫学者という肩書は、ぼくの研究活動のスタイルによく合っている。
コスタリカには35万種ともいわれる多種多様な昆虫が生息している。そのほとんどに、まだ名前が付いていない。付いていても、生態が明らかにされていないものばかり。ぼくはジャングルや高山、樹上や洞窟など、さまざまな場所で主に昆虫たちの生き方を調べている。観察、採集、飼育、そしてそのデータを論文などにして発表する。毎日が発見の連続で、そんなところは探検的だ。
普段の格好、ポイントは腰からぶら下げた「ごみ袋」
一方、米国ワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館のハムシやゾウムシの分類学者仲間たちは、ぼくのことを「バッグマン(bagman)」と呼ぶ。
その理由は、森へ採集に行った時のぼくの格好にある。いつも腰に大きな緑色のゴミ袋をぶら下げているのだ。ぼくは昆虫を採集すると、餌や住まいとなる植物も一緒に小さな透明のビニール袋に入れる。空気もたっぷりと入れ、洗濯バサミで封をする。そのパンパンに膨れ上がったビニール袋を、腰にぶら下げた緑色のゴミ袋にためていくのである。少し怪しい姿だが、重心は腰回りにドシン!とあって、両手も常に空けていられるので動きやすい。で、さらなる虫を求めて森の中を歩く。
つまり、昆虫の住みかごとお持ち帰りして、昆虫の生態を飼育して調べるのがぼく。一方、分類学者はできるだけ多くの標本を得るために、昆虫だけをエタノールや毒薬が入った5センチぐらいのガラスチューブにためていく。胸ポケットに軽く納まるサイズだから、大きなゴミ袋なんて必要ない。ちなみにバッグマンはアメリカ英語で「ちんぴら」、イギリス英語では「浮浪者」という意味。なるほど、ハズレではない。
昆虫学者。1972年、大阪府生まれ。小さいころから、生き物を相手にわが道を行く。中学卒業後、単身、米国の高校に入学。大学では小さい頃の生物に対する思いが高まり、生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカ大学の調査員として、米国政府のハワイ州の外来侵入植物対策プロジェクトに参画する。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
[Webナショジオ 2011年5月27日、同6月7日付の記事を基に再構成]
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