富士山夜間登山は悪か 山梨、「弾丸」強まる逆風

1日山開きする富士山では今年、夜間登山者の排斥が強まる。その方法は移動の自由の規制だ。山梨県側の有料道路「富士スバルライン」の終点であり、登山を始める5合目に到着する夜間バスを運行する富士急行は午後8時以降に5合目に到着するバスの運行を大幅に削減する。その背景には横内正明知事から堀内光一郎・富士急社長への要請がある。山梨県庁の弾丸登山の定義は「事前に十分な休息を取らず、夜通し登山する」ことで、山小屋に泊まるのは良い登山、泊まらないのは悪い弾丸登山とする。しかし、昼寝を取るなど夜の登山に備える、まじめな少数派の夜間登山者を一緒くたにし、その移動手段を狭め、萎縮させかねない。夜登るのはそれほど悪いことなのか。

渋滞する富士山の夜間登山=山梨県提供

7~8月の休前日(金曜、土曜、祝日の前日=今年は7月20日のみ)には5合目へ午後8時以降到着する新宿発の高速バスを運行しないという富士急行の時刻表が同社ホームページにアップされたのは5月30日だった。例年なら高速バスや路線バスのダイヤは5月下旬に発売される6月号の全国時刻表に掲載されるが、今年は間に合わない異例の事態となった。県の要請に対応するため、「新宿発の高速バスの発着時間が例年と大幅に変わり、新宿バスターミナルの他のバスとの調整に時間がかかった」と富士急の担当者は説明する。

ツアーバス以外で5合目に行く定期バスは(1)新宿からの高速バス(2)富士急富士山駅・河口湖駅からの路線バス(3)マイカーで来た人がバスに乗り換える富士北麓駐車場からのシャトルバス――があり、いずれも富士急が運行しているが、すべて休前日は午後8時以降到着便を運行しないことになった。休前日に増便するのはよくあるが、1週間のうち休前日2日間がバス乗客の4~5割を占めるにもかかわらず、需要と供給の原則にあえて逆らう異例のダイヤ設定だ。

山梨県が13年に掲げた弾丸登山自粛を呼びかける看板(富士山6合目)

県と富士急の交渉が始まったのは豪雪の余燼(よじん)くすぶる2月下旬。山梨県で富士山関連の政策を担当する富士山保全推進課は当初、富士北麓駐車場と富士山5合目を結ぶシャトルバスだけを規制の対象としていたが、高速バス、路線バスにも拡大した。県側は当初、午後7時以降に5合目に到着するバスを規制する考えで、富士急の9時以降とは開きがあったが、結局8時に落ち着いたという。午後8時だと、休前日の新宿発5合目行き最終バスは4時半になる。交渉がまとまり、3月20日付で富士急行の堀内社長に対する横内知事の依頼書が渡された。6月11日には知事が富士急以外の旅行会社をターゲットに観光庁長官や旅行会社の業界団体に弾丸登山排除の要請活動を繰り広げた。

県は今年、7月10日~8月31日の53日間のマイカー規制を決めている。この間の休前日は1合目から登るか、午後8時前に5合目へ到着する高速、路線、シャトルバスの最終便に乗るか、それ以降はタクシーで5合目へ行くぐらいしか手段はない。