首から腰にかけて通っている背骨。首の頸椎は前カーブ、胸の胸椎(きょうつい)は後ろカーブ、腰の腰椎(ようつい)は前カーブ、というふうに、緩やかにS字曲線を描いています。しかし、現代人の大部分は胸椎の後ろカーブがきつい猫背の状態にあります。この猫背を正して「美しい姿勢」を作る方法を今回はお話ししましょう。
■猫背は「楽な姿勢」だが「いい姿勢」ではない
そもそも人間は、丸まろうとする力が強い生き物です。赤ちゃんはくるんと背骨を丸めて生まれてきますし、年を取るにしたがって、背中はだんだん丸くなる。この「丸まろう」とする力に抗うのが筋肉の力なのですが、現代人は筋肉が本来の仕事をしていない。これが猫背を生み出す原因となります。

あなたが猫背かどうかは、気を抜いているときの立ち方で一目瞭然。横から見て、頭は体の軸の真上にのらず前に出て、あごは上がるのが猫背。特にイスに座るデスクワークによってさらに悪化します。なぜかというと、猫背の方が楽だから。詳しく説明しましょう。
理学療法では、体重を支える、体と床が接している部分をぐるりと囲んだエリア──これを「支持基底面」と呼びます。イスに座った姿勢のときの支持基底面は、お尻がイスに接する面と、両足が床に接する面をぐるりと取り囲んだ範囲内となる。このとき、最小限の負荷で安定する、最も楽な姿勢は「体の“重心”が支持基底面の中心にあるとき」です。では、座ったときの“重心”ってどこにあるのでしょうか。ちょうど胸椎の9番あたりなんです。胸椎9番とは、女性ならばブラジャーの背骨側のベルトから指2~3本分下がったあたり。
ここが重心になるので、きれいに背すじを伸ばすと、重心が後ろ寄りになります。すると、姿勢を安定させるためには腹筋を使わないといけない。ところが、ここで背中を前に丸めると、重心が前に移動する、つまり支持基底面の中心に近づくんです。「背中が丸まっている方が、座るときには楽だ」ということになる。人は楽をしたい生き物ですから、自然に猫背になるのは当然というわけです。
ただ、ここで誤解してはいけないのは「楽な姿勢」と「いい姿勢」はまるっきり違う、ということ。猫背の姿勢をとっているときは、背骨のたわみと骨周囲の靱帯ぐらいしか動員されていません。筋肉は、ただその上に漫然とのっかっているだけ。筋肉が本来やるべき伸びたり縮んだりといった動きを繰り返すことができず、調子がおかしくなってしまうのです。
【普段の座り姿勢を確認しよう】
なにげない座り姿勢をチェック。頭が前に出て、あごが上がり、背中が後ろに丸くなるのが「猫背」。腰も曲がってしまい、骨盤の後ろ側の骨、仙骨(せんこつ)や尾てい骨を座面につける「仙骨座り」になることも。