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中江有里さんが読む直木賞作『ホテルローヤル』 変わりどきは、読書どき(2)

2013/8/28

夏休み、秋の連休に向けて計画を立てている方がいらっしゃると思います。旅に行く時、カバンに一冊本を忍ばせてみませんか? 旅に読書はうってつけ。長時間の移動、長い夜の良きお供にもなってくれます。

わたしはいつも旅行の日数分の本を持っていきます。ある長い旅行の時、トランクの半分が本で埋まってしまい「一体わたしは旅に行くのか? それとも旅先に本を読みに行くのか?」と自問自答。重量オーバーも心配だったので(本は結構重い)、泣く泣く本の量を半分に減らしました。

前置きはさておき、今回紹介するのはこちら。

桜木紫乃著『ホテルローヤル』(集英社 1470円)。

桜木紫乃著『ホテルローヤル』(集英社 1470円)

先ごろ発表された第149回直木賞受賞作。北国のラブホテルを舞台にした短編小説集です。

わたしが初めて読んだ桜木さんの本『ラブレス』もまた同じく北国を描いています。ご自身の出身地を題材にとり続ける桜木さんの文体は、頭ではなく体を使って書いている、という気がします。そのストーリー、躍動感、広大な大地から湧き出るような力強さに心揺さぶられました。

『ホテルローヤル』は、あるラブホテルの始まりからやがて廃虚になるまで、ここを通り過ぎていった人々について語られます。

登場人物はお人好しだったり、あるいは傲慢だったり、湯船にたとえるなら熱すぎるかぬるすぎるか、ちょうど良い温度の人がいない。強引な人に押し切られたり、逆に押し切ってみたり、見ている方(読んでいる方)が「ちょっと、立ち止まってよく考えなさいよ」と思わず声をかけたくなる。だけどページをめくる手は止まらない。

生活費の捻出に四苦八苦している妻の手元に思いがけず残った5000円。そのお金で「ホテルローヤル」に入ろうと夫を誘う『バブルバス』。生活に追われるばかりの夫婦にとってこの部屋で過ごした休憩時間は、どんな高級ホテルや旅館でも得られない至福の時だった。

『ギフト』は妻子ある身ながら、年下のるり子にほれ、共にラブホテルを開業しようと持ちかける大吉が主人公。大吉は本当にバカでどうしようもない人なのだけど、そんな彼をひたすら慕うるり子の存在が女神のように際立つ。自分をただ肯定してくれる人がいる、その奇跡が美しい。人の幸せとは、本当に人それぞれなのだと感じました。

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