「一歩前へ」 フェイスブックCOOが語る
シェリル・サンドバーグ氏
――リーダー層における女性の少なさをかねて問題視してきましたが、現状をどう見ていますか。
「女性はこれまでに様々な進歩を遂げてきましたが、あらゆる産業、地域においていまだリーダー層からは縁遠いのが現実です。世界には女性や大統領や首相に就いている国が17ありますが、議員に占める割合は20%にすぎません。比較的進んでいる欧州でも30%にとどまっており、50%には達していません」
「企業に目を転じると、もっとひどい状況です。主要企業で最高経営責任者(CEO)の4%以上が女性という国は世界中、どこにもありません。取締役会のメンバーを見ても、フィンランドの27%というのが最高です。もっとひどいのは多くの領域で改善が止まってしまっていることです。米国では企業幹部の14%が女性ですが、この比率は10年間変わっていません」
■女性活用の遅れは社会の損失
――女性の活用が進まない現状は、社会全体にとっての損失だと説いていますね。
「企業の取締役会でもPTAのミーティングでも、意識決定の場に女性が少ないということは、女性の意見が十分に反映されていないことになります。こういう話をすると、一部の女性のことかと思われるかもしれませんが、違います。競争により多くの人が参加すればよりよい結果が生まれるはずですし、企業の生産性、男性を含め働きやすさにもつながります」
「私は何も別に、大げさに話をしたいわけではありません。女性登用によりユートピアが実現するとか、世界平和が訪れるなどというつもりもないのです。ただ、企業や国家の半分が女性によって運営され、家庭の半分を男性が担えば、現在よりもいろいろなことが改善されると信じています」
――10年間状況が改善していないということですが、どうしてだと考えますか。
「女性が直面している制度上の課題は少なくありません。より柔軟性が高い労働形態、手が届く費用で利用できる保育施設、出産・育児休暇の拡充などが必要でしょう。ただ、これだけでは不十分です。オープンで率直な対話、すぐに取ることができる行動もあると思います」
――具体的には。
「女性に呼びかけたいのは、『リーン・イン(一歩前に踏み出す)』ということです。女性は性差別などの事情により控えめになりがちですが、控えめになる理由はそれだけではありません。原因は私たち自身の中にもあるのです。伝統的な『女性はかくあるべし』という社会的な刷り込みが、内側から支配している面が大いにあると感じています」
「テストの結果を聞くと、男性は実際より少し高めに、一方、女性はやや低めに申告する傾向があります。『なぜ成功したの』という問いに対して、男性は『自分の能力のおかげ』、女性は『周囲の支援や幸運のため』となりがちです。女性はこう考えている限り、『次回は支援や幸運がなかったらどうしよう』と心配してしまい、男性と同等の自信につながりません」
「控え目」傾向は世界共通
――何が問題なのでしょうか。
「原因のひとつは女性のリーダーが少ないことだと見ています。男性は成功すればするほど男性からも女性からも好かれますが、女性は成功するとともに双方から嫌われるというのが実情でしょう。でも、小さいうちから自分たちの娘がリーダーになることを後押しすれば、状況は変わっていくと思います」
――こうした傾向に地域差はあるのでしょうか。
「今回、本を出すに当たって様々な地域の事情を調べましたが、女性の『会議室で隅に座ってしまう』『なかなか挙手しない』という傾向は驚くほどに世界共通でした。それがこの本を約20の国や地域で出版する背景にもなっています。問題は根深いですが、一方で、ステレオタイプな女性観を排することなどにより、改善も可能と見ています」
――男性にも意見があるそうですね。
「知人の話ですが、5歳のお嬢さんが学校から帰ってくると、『困ったことがあるの』と話したそうです。どうしたのと尋ねると『私も、私の好きな男の子も宇宙飛行士になりたい』との答えが返ってきたので、『すごいじゃない』と続けると、『2人とも宇宙に行ったら子供の面倒が見られないので、私はいけないわ』と言ったそうなんですね」
「この事例からも分かるのは、家事はいまだに圧倒的に女性の仕事だという現実です。あらゆる国や地域でそうなっているというのも今回の発見でした。男性に申し上げたいのは、より積極的に家事、育児に取り組んでほしいということです。こうすることで家庭生活は改善されますし、子供にも良い影響があるのはあきらかです」
■オープンな対話が大切
――企業はどのような取り組みが必要でしょうか。
「女性が機会を手にすることにコミットすることが重要です。なぜ、毎日、女性ではなく男性がテーブルの真ん中に座っているか考えてみて下さい。フェイスブックでも、私はこの点に関して口を酸っぱくして言ってきたので、難しさも理解していますが……。それともうひとつ大切なのは、問題を隠したり見て見ぬふりをしたりするのではなく、オープンな対話をすることです」
――今後はどのような活動を計画していますか。
「『LeanIn・Org』という組織を立ち上げ、この問題についてオープンに話し合うことができるコミュニティーを作りたいと考えています。オンラインで教材を提供したり、8~12人のリーン・イン・サークルを組織したりするのが主な活動です。サークルでは毎月1回メンバーが顔を合わせ、相談できるようにしたいと思っています」
「こうした活動はまずは英語で始めますが、世界各地に広げていきたいと考えています。ゼロックス、コカ・コーラ、ウォルマート・ストアーズなど世界中から125以上の企業や団体が支援を表明しています。最初にも申し上げましたが、現在、女性を巡る状況の改善は止まっています。行動を起こさなければ何も変わらないのです」
(聞き手はシリコンバレー=奥平和行)
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