身近なことに驚く毎日…いつの間にか94歳に
――堀さんは今年7月に、94歳になられました。
堀 私は、年を意識して生きてきたことがないんです。毎日、つんのめるようにして生きているうちに、いつの間にか94歳になりました。
地球が太陽の周りを1回、回ると1つ年をとるわけですが、そんなことよりも、地球が1年で太陽の周りを回ることをなんて速いんだろうと思います。飛行機どころの速さじゃないですね。たいへんな騒ぎで地球は回っているのに、私たちはこんなところに、振り落とされないでいるんですね。そんなことにばかり、驚いているうちに、こんなになってしまいました。
――2001年、83歳のときに大きな病気を経験されたそうですね。
堀 解離性動脈瘤と後で聞きました。そのときは、一晩、悶絶(もんぜつ)する痛みの中にいました。でも、自然に治癒したんです。自然にゼリー状のものが傷口をふさいだとお医者様から言われました。
それから少し、自分の身体に対して自信を失いまして、一人で山歩きなどはできなくなりました。運動不足になって腰が痛くなり、90歳くらいのときに、その手術をしました。歩くのが苦痛になってきました。
過去の自分の作品は追わない
――いまも新しい作品はつくられているんですか。
堀 ものはつくっておりますが、みなさまが思われるような新しいものではありません。私流の、いまのこの身体でできることはしております。このごろはアフリカの仮面だとか、そういう原始の人たちの、まだ絵画とか芸術とか言わなかったころの人間の根源の時代の作品に心を打たれることが多いので、そういうものをまねしています。
――堀さんは自分には画風がない、とおっしゃられていますね。
堀 そのときに、逆上するほど興奮したものしか描きません。いくらほめられても、過ぎ去った自分の作品を追わないようにしています。
自分のコピーはだめです。コピーすればするほど、人は喜びますが、自分にとってはよくないと思っています。
私は、さまざまな絵を描くので、まるで別の人が描いていると思われるかもしれませんが、私にしてみれば、それぞれが、そのときの記録なんです。同じ自分はいないんだということです。