動画配信サービスの人気を2分するニコ動とYouTube
日経エンタテインメント!
国内動画配信の歴史は意外と古く、個人向けブロードバンドサービスが普及期に入った2000年ごろから、映画やドラマ、アニメなどの配信サービスが展開されていた。しかし、キラーサービスと呼べるほどの存在は生まれてこなかった。
光明が見え始めたのは2006~2007年ごろ。一般人が撮影&制作した「ユーザー発」の映像を配信できる動画共有サービス──「YouTube」と「ニコニコ動画」が急速に広まったあたりから。どちらも当初は、コンテンツの無断配信や改変など違法性が問題となったが、前社はGoogleの傘下となり企業性を高め、後者はボーカロイド「初音ミク」などを契機に人気サービスに成長した。
同じくユーザー発で、少し遅れて始まったのが、"生中継"に特化した「USTREAM」だ。2010年12月には、宇多田ヒカルの横浜アリーナ公演の模様を配信し、34万5000人もの視聴者を獲得。専用スタジオ「USTREAM Studio」「同+」を全国展開している。このように、動画配信でブームを起こしているのは、ユーザー発のものが多い。
一方、従来型──事業者側がコンテンツを配信する「公式型」にも、動きが出始めている。目立つのは、海外勢の参入だ。2010年、アップルが「iTunes Store」にて国内外の大手配給会社の映画作品の配信を開始。2011年にはNBCユニバーサルらが共同出資する「Hulu」の日本版がスタート。パソコン、スマートフォン、テレビと、場所を選ばないシームレスな視聴環境を提供している。
ニコ動を中心にシーンを形成
群雄割拠の動画配信市場だが、「現状、国内で頭ひとつ抜けた状態なのはニコニコ動画」──そう語るのは、ネット事情に詳しいジャーナリストの津田大介氏だ。
津田氏は「ニコ動はもはや動画配信サービスではなく、"動画を起点にしたソーシャルメディア"と見るべきだ」と言う。「みんなで今見ている映像に対してツッコミを入れながら盛り上がれる、あの感覚を知った人がテレビに物足りなさを覚えてしまう。そんな価値観の提示に成功しました」。
ニコ動の人気映像といえば、前述の初音ミクや一般人が歌ったり踊ったりしたもの、小沢一郎による公式動画配信など、今のテレビとは一線を画した、隙間を突いたものが中心だ。さらに、4月に開催され大きな話題を呼んだ「ニコニコ超会議」など、ドワンゴが積極的に仕掛けるリアルイベントが、拡大を後押ししていると言う。「ユーザーがパソコンの前からリアルの場に飛び出す状況を作り、ファンを増やした。ニコ動は、映像、コミュニケーション、イベント体験を武器に"ニコニコ文化"ともいえるひとつのカルチャーを作り上げているんです」。
もう1つ津田氏が注目するのが「YouTube Live」だ。これはニコニコ生放送のようにユーザー自身が現在の様子を生中継できる、YouTubeのサービス。現在は報道機関やアーティストなどに向けて提供中だが、一般ユーザーに開放されればニコ生を脅かす存在になるのではと予測する。「2ちゃんねるなどにも通じる、ニコ動特有のノリが嫌いな人は少なくない。彼らにとってYouTube Liveは新たな選択肢になるはず。特にシンポジウムの中継などには向いている」。
他方、有料の公式動画を配信するサービスについては、「料金体系の変更で広がる可能性がある」と見る。「BSやCSで1番組ごとに課金するPPV(ペイ・パー・ビュー)が根付きにくいように、日本の視聴者は動画そのものにはなかなかお金を支払わない。ただ、日本人は映像を画面で見ること、つまり"テレビ的なもの"は好きである。テレビ局などが展開するサービスのように、個別の映像に課金するのでなく、番組見放題やイベントを絡めるなどの特典を付加して、サービス全体の魅力で有料会員を呼び込むのもひとつの手だ。現に、ニコ動のプレミアム会員は一定レベルの成功を収めています」。
月額1000円で数百本ものアニメが楽しめる「バンダイチャンネル」は人気。前出のHuluも日本での展開は月額課金モデルだ。また、AKB48によるコントを配信するテレビ特化型の「ひかりTV」、2012年4月1日に開局したNTTドコモ向けのモバイル放送「NOTTV」も定額制がメイン。両社は、自社でメジャー感ある番組を制作しているのが特徴だ。
今後、動画の視聴は、スマートフォンやiPadの普及など、特にモバイル方面で、広がるだろう。ニコ動、YouTube、USTREAM、公式動画配信──サービスの特性やコンテンツを理解して、自分に合ったサービスを使い分けていきたい。
(ライター 成松哲)
[日経エンタテインメント!2012年5月号の記事を基に再構成]
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