東京・大手町、2020年に向け大変貌 くつろぎの街へ
日本経済新聞社の本社がある東京・大手町は、再開発のまっただ中にある。今もあちこちで工事が続き、街の風景は刻一刻と変わっていく。この先、大手町はどうなるのか。どんな施設が生まれるのか。2020年東京五輪に向けて変貌しつつある大手町の将来像を探った。
高級ホテルや旅館、ランナー施設も
「冷たい街から活気ある街へ。大手町はこれからどんどん変わっていきます」
東京駅周辺の地権者でつくる大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会(略称:大丸有協議会)の金城敦彦事務局長は、再開発が目指す方向を示す。
「大手町はこれまで非常に機能的なビジネス街で、ビジネスパーソンは自社ビルにこもり、ともすれば冷たい印象がありました。でもニューヨークやロンドンのようにビジネスパーソンがもっと街に出るようになれば、雰囲気は変わります。そのためには人々が交流できる場所をつくらなければならない」
金城さんが挙げるポイントは2つ。(1)宿泊・交流施設(2)にぎわいを演出する歩道――だ。
宿泊施設で目玉となるのが「星のや東京」。16年の開業を目指している高級和風旅館だ。18階建てのビルに84室を予定している。エントランスで靴を脱いで上がるスタイル、全客室が畳敷き、天然温泉の浴場を設けるなど徹底的に和風にこだわった。
全面開業間近の大手町タワーの上層部には、今夏をメドに、高級ホテル「アマン東京」がオープンする。世界各地で展開するシンガポールのアマンリゾーツグループの日本初進出となる。
長期滞在型の宿泊施設も
さらにもう一つ、ユニークな宿泊施設が登場する。旧りそな・マルハビルと旧三菱東京UFJ銀行大手町ビルを一体的に再開発する「大手町1-1計画」では、長期滞在用の「サービスアパートメント」ができるという。
三菱地所によると、ホテルとアパートの中間のような施設だとか。ホテルのようなフルサービスはないが、リネン交換やクリーニングなどのサービスを受けられる。16年完成のB棟に約120室整備する予定だ。
この計画では、15年竣工予定のA棟にランナーズステーションができる。皇居ランナー向けの交流施設だ。シャワーやロッカーを完備するため、ランナーの拠点となりそうだ。
ちなみにこの大手町1-1計画、皇居の堀の水を浄化する取り組みも始めるという。A棟の地下部分で堀の水を引き込み、きれいにしてから戻すのだ。特に水が減ってにおいが気になる夏場に放流することで、効果が期待されている。
日本橋川沿いに歩道を整備
大手町再開発のもう一つの目玉が、歩道の整備だ。大手町地区の北側を流れる日本橋川に沿って、ゆったりとした歩道ができるという。
正式名称は「千代田歩行者専用道第6号線~第8号線」。味も素っ気もない名前だが、「これまで川に背を向けていた街を川に向かう形にしてうるおいをもたらしたい」(大丸有協議会の金城さん)。
既に一部が整備されている、大手町フィナンシャルシティ横の通路を歩いてみた。
まず目に付くのが、印象的なタイルと「エコミュージアム」の文字。タイルは有田焼らしい。その名の通り、太陽光発電やミドリムシ、バイオ燃料など先端の環境技術を紹介するパネルが置いてある。
奥に進むと、宇宙船を思わせる奇妙な物体があった。ちょうど人がいたので聞いてみると、中でレタスとイチゴを栽培しているという。ミニ植物工場というわけだ。歩道はまだ「にぎわい」にはほど遠かったものの、大手町の変化を肌で感じる場所になっている。
丸の内仲通りを「延伸」
街の中心部でも、新たな歩道の整備が着々と進んでいる。資料には「大手町に丸の内仲通り機能を延伸する」と書いてある。どういうことか。
「正確には通りを延伸するのではなく、あくまで『仲通り的な』機能を大手町にも広げていく、という意味です」
大丸有協議会の金城さんは意図を説明する。
丸の内を南北に貫く丸の内仲通りは、石畳や街路樹が印象的な街並みを演出している。ブランドショップが立ち並ぶこの通りは、街ににぎわいをもたらしたシンボルでもある。
「永代通りまで続いている丸の内仲通りのにぎわいをそのまま大手町にも持ち込むため、広場機能を持った通路を整備しています」
4月に完成予定の大手町タワーでは、敷地内に「森」を整備した。昨年完成した読売新聞東京本社ビルは、隣の東京サンケイビルとの間を12メートル開け、通路を確保した。いずれも店舗を設け、にぎわいのある空間を作ろうとしている。
通路は大手町ビルでいったん分断されてしまうが、「大手町ビルは通り抜けが可能なので、ビルの中にもにぎわいが続くようにしたい」。
ちなみに、三菱地所の本社が入る大手町ビルは築56年。再開発の予定はないのか。同社に尋ねると、「いずれはその可能性もありますが、現時点では具体的な計画はありません」とのことだった。
カルガモ親子、平将門の首塚は…
大手町ではこのほか、2つの大規模プロジェクトが動き出した。
ひときわ大きいのが、三井物産本社ビルがある一画だ。広さはなんと、2万平方メートル超。隣接のビルと一体的に再開発するという。16年に着工し、19年に竣工する予定だ。
三井物産と聞いて気になるのが、カルガモが飛来する人工池。ヒナが誕生し、親子で皇居に引っ越しする姿が人気を集めた。あの人工池はどうなるのか。
再開発が浮上してから、一部報道では「人工池は閉鎖」と伝えられた。実際に訪れてみると、工事中で入れない。三井物産に聞いたところ、「人工池はいったん閉鎖します。既に水を抜いてあります」とのこと。今年はカルガモの姿は見られないようだ。
では再開発後はどうなるのか。
「まだ何も決まっていません。人工池的なものを造るかどうかも含め、検討中です」。カルガモが飛来する池はできるのか。再開発後もカルガモが来てくれるのか。気になるところだ。
資料を見ていて、気になる点があった。同社が発表した再開発の計画地を見ると、1カ所だけ不自然に欠けている。ちょうど「コ」の字のような形になっているのだ。これはもしかして……。
「はい。ここは『平将門の首塚』があるところです。今回の再開発には含まれていません」
幾多の都市伝説を生んだ首塚は、今回の建て替えでも維持されるようだ。
もう一つのビッグプロジェクトは逓信総合博物館(ていぱーく)の跡地。隣接する東京国際郵便局跡地などと一緒に35階建てと33階建てのツインタワーに生まれ変わる。こちらは18年の完成予定だ。
気象庁は虎ノ門に移転
残る大物は、日本ビルがある一画。もともとは再開発計画に含まれていなかったが、昨年3月、第4次再開発事業として浮上。まだ具体的なプランも日程も出ていないが、いずれは大きく変わりそうだ。
影響が大きいのが気象庁の移転計画。港区虎ノ門の小学校跡地に移転することが既に決まっている。日本初の公立小学校といわれる旧鞆絵小学校跡地だ。ただしスケジュールはまだ出ていない。
問題は気象観測点だ。これまで大手町の本庁舎敷地内に置かれていたが、移転後は約1キロ離れた北の丸公園に移るという。移転は1964年以来、50年ぶりとのこと。
移転によるデータへの影響を調べるため、既に11年から北の丸公園での観測を始めている。大手町と北の丸公園の平均気温は北の丸公園の方が低いようで、移転後は天気予報に表示される東京都心の気温がこれまでより低くなるかもしれない。
感慨深い20年前の地図 今はない銀行名も
変わりゆく大手町。手元に1994年作製の地図があったので眺めてみた。
再開発後と比べると、やはり区画が小さい。今はない企業名も目に付く。特に違うのが銀行だ。さくら銀行、あさひ銀行、日本長期信用銀行、第一勧業銀行、富士銀行、東洋信託銀行……。懐かしい名前がずらりと並ぶ。
当時は存在感を放っていた大手町フィナンシャルセンターや富士銀行本店ビルはもう存在しない。大手町に隣接する丸の内では、東京都庁、JRビル、そして東京中央郵便局が姿を消した。
あれから20年。大手町では、東京五輪に向けて「大手町2.0」とでもいうべき大変化の波が押し寄せている。無機質な街から厚みのある街へ。そのかじ取りは大手町に集う人々に委ねられている。
(河尻定)
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