子どもの笑顔は大人がつくる
~ママ世代公募校長奮闘記(17) 山口照美
2学期の終業式を迎え、子どもたちを冬休みへと送り出すことができた。疲労と安堵の入り交じった中、この原稿に向かっている。
学校行事の多さと、土日を問わない地域やPTA関連の用事に加え、娘の保育園行事でヘロヘロになり、気力で布団を跳ね飛ばしてどうにか出勤する。そんな日々が続いた2学期だった。それは校長だけでなく、多かれ少なかれ他の教職員も同様だろう。とにかく、行事が多かった。来年度は、やるべきことの精選が課題となる。行事を削る際は、諸方面に気を遣う。「やめる」という選択は、「はじめる」より辛い。あちこちに頭を下げ、時には敵を作る覚悟が必要だ。アメリカのある女性CEOが、上司に言われたセリフを思い出す。
「誰からも好かれようとするから、思い切ったことができないのだ」
この9カ月の自分に刺さるセリフだ。嫌われてでもやり遂げる覚悟が、足りない。でも、若いうちは会社組織で、20代後半からは自営業で揉まれてきて思う。きっと、柔らかく着地できるポイントはあるはずだ。
大人は、意志がないと成長できない
終業式の校長講話では「この1年の自分をふりかえること」を、子どもたちに求めた。ビジネスセミナーでも、よく最初に問いかけていた。
「2012年12月25日の自分を思い出してください。どんなことに悩み、どんな目標があり、どんな状況だったか」
1年前の私は、年明けから始まる校長研修に備えて期待と緊張でいっぱいだった。一方で、自営業の売上を落とすわけにいかない。1月からの生活も、4月からの着任後の生活も、まったく読めないまま仕事を詰め込んでいた。
「1年前の自分と、今日の自分で『成長した』『うまくやれるようになった』と思えることを挙げてください」
大人に呼びかけてきた言葉を、児童にもかける。小学生達を見ながら、「子どもはいいな」と思った。放っておいても体が成長する。運動能力が高まる。学校生活が後押しをして、ペースの差はあれ、必ず成長する。どの子にも、褒めるところが確実にある。
大人は、そうはいかない。体力が持たなくなる。多忙になり、学ぶ時間が減る。そして、素直さが無くなる。「去年の自分を超えたい」という執念を持たないと、日々の仕事に埋没してゆるやかに衰えていく。
「中途半端に食える時が一番危ない」と、自営業者の受講者にも自分にも言い聞かせていた。常連客を相手に、焦らなくてもそこそこ稼げる時に、危機感と成長欲を失う。
進学塾で働いている時は違っていた。成長する子どもに負けまいと、必死で学ぶ。同じ教材でも、子どもが変われば同じ教え方は通用しない。予習で手を抜けば、隙を与えてしまい教室がざわつく。同じ悩みを、小学校の先生達からも聞いた。子どもが、大人を容赦なく鍛えてくれる。久々の現場で、改めて感じた。
この1年、そして2学期。
「自分のできたこと、がんばったことをふりかえろう」「やりたかったのにできなかったことは、理由を考えてみよう」「来年の目標を決めよう」
子どもに投げた以上、校長である自分もふりかえる。自分はどこまでできただろうか?子どもの安全を守る、明るい空気の職場を作る、目の前の課題を解決する。行事を乗り越える。学校長としてやるべきことを見極め、ミスを出さないように気を配る。
気を配っていても、校内・教育委員会・地域・PTA・校長会などもろもろからやってくる行事や文書を、スマートに管理できない。同じミスを繰り返すのは、嫌いだ。自分に腹が立つ。小さなミスは、大きな危機を防ぐための警報だ。連絡漏れ、書類作成ミス、忘れ物。ミスが出る度に、ふりかえる。自分の仕事能力が不足しているのか、それとも学校に振ってくる業務量がクレイジーなのか。
「小さな改善」がもたらすもの
校内の忘年会で「今年がんばったこと」と「来年がんばること」を尋ねられた。
今年がんばったこと、「全部」。
環境が変わり、膨大な情報量に翻弄される日々。多方面に気を遣う立場だ。激動の教育業界で、学ぶべきことも多い。小規模校では、校長も1スタッフだ。トラブル対応や来客応対で、まとまった業務時間が取れない。
毎朝、通勤電車には30分ほど乗っている。最初の10分で、スマホの日記アプリに昨日のできごとを書く。ふりかえりながら、今日の動きを整理する。残りの20分は読書をして、頭を一度切り換える。出勤して、打ち合わせも交えて「やるべきこと」をA4の紙に書き出す。
毎日が、反省会。
毎日が、昨日よりもっとうまくやるための、アイデア出し。
今年の8月に、40歳になった。
進学塾の塾長になったのは、25歳の時だった。休み講習には朝の9時から夜の9時まで授業をし、子どもを帰してから採点や営業業務をする。帰る時間が惜しい時は、児童机を8個並べて教室で寝る。受験の朝は、塾の旗を持って志望校の門前に立つ。ほとんど寝ていなくても、授業になると大きな声が出せた。
その若さは、今は無い。少し睡眠が足りないと、体がどんより重くなる。
家では、子どもが待っている。思うように休めない。
だからこそ、もっとうまくやるための知恵がいる。「うまいやり方」を各自で工夫し、情報交換すればお互いが楽になる。職場でも、家庭でも。
2014年がんばりたいことは、「スケジュール管理」と答えた。
「子ども達の笑顔のために努力します!」という気合いでは、何も解決しない。この2学期、特に思い知った。学校全体のスケジュール管理を、「鳥の目・虫の目」の両方を使って徹底する。
教頭先生と教務主任の先生と一緒に、例年より早めに、2学期までの振り返りと来年の行事予定を一通りチェックした。来年の2学期に「あー、去年もこの時期キツかったなぁ」と悔やむのでは、成長がない。鳥の視点で、俯瞰して1年を見通す。同時に、虫の視点で細かい動きをチェックする。
先を見通し、ミスやトラブルを事前に防ぐ手を打つ。そのことで、教職員の動きに余裕が生まれる。子どもに向かい合う時間が増える。
「子どもが笑う理由」は、大人の笑顔
スケジュール管理は、各自がプライベートを充実させるためにも必須だ。今年、我が子にどこまで余裕を持って接することができたか。後悔は多い。
教育関係の講演で、ある先生の投げた言葉が、胸に引っかかっている。
「子どもは、どんな時に笑うと思いますか?面白いから、うれしいから笑うんじゃないんです。大人が笑うから、笑うんですよ」
やってみると、わかる。叱られた娘が、不安に満ちた顔で私を見ている。「ふふっ」と笑って見せると、途端にニコっとなる。叱りっぱなしで終わらないための、小さなルール。学校でも、そうだ。人見知りで、いつも緊張気味の子どもがいる。会う度に笑顔で話しかけ続けていれば、心を開いてあどけない顔を見せてくれる。
大人の笑顔が、子どもの笑顔をつくる。
「だから、大人はもっと自分を褒めてあげないとダメだよ」と、その先生は言っていた。
全国のオトウチャン、オカアチャン。今日はクリスマス、もうすぐお正月。よくやった、成長した、結構やるじゃん。自分を褒めて、ごほうびに好きなもの食べて、子どもと笑って年を越しましょう!
よいお年を!
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中
(構成 日経DUAL編集部)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。