「負けないで」は特別な楽曲に ZARD・坂井泉水
日経エンタテインメント!
90年代にヒットチャート上位を独占したいわゆるビーイング系で、TUBEやB'zなどと共にブームの一翼を担ったZARDのボーカル、坂井泉水。1991年に『Good-bye My Loneliness』でデビューし、1993年の『負けないで』でブレイクした後も、アニメやドラマなどのタイアップも功を奏し、『揺れる想い』(1993年)や『永遠』(1997年)などナンバーワンソングを量産した。それらヒット曲を含むアルバム9作は連続ミリオンヒットを達成。この記録は破られていない。

素顔ではなく作詞と歌で勝負

テレビへの出演が極端に少なく、全国ツアーを行ったのは2004年の1度きりだったため、「ZARD=坂井」の存在はミステリアスだった。
それにもかかわらず、坂井が自ら作詞したシンプルで伝わりやすいメッセージと温かな歌声を身近に感じ、背中を押された人は数多い。坂井が同じレーベルだけでなく、アジアの歌姫テレサ・テンや森進一などに詞を提供していたことからも、彼女の"言葉力"の高さがうかがえる。
2001年ごろから体調を崩し、休養を余儀なくされるが、2004年に完全復活を思わせる10 thアルバム『止まっていた時計が今動き出した』を発売。当時、リバイバルヒットしていたクイーンのベスト盤に1位は阻まれたが、2位となり人気の高さを改めて示した。
しかし15周年となる2006年に子宮頸(けい)がんと診断され、闘病生活に入る。2007年に入院先の病院で事故死したというショッキングなニュースは国内外を駆け抜け、葬儀には4万人を超える参列者が訪れた。当時、NHKの情報番組などでZARDや坂井が与えた影響を検証する番組が作られたことからも、社会的に大きな関心事だったことが分かる。没後は命日に合わせ、毎年フィルムコンサートが開催され続けている。

高校の英語教科書に登場
多くのヒット曲があるなかで、『負けないで』が時を経るほど特別な楽曲へと育ったことは実に興味深い。
1994年に春の選抜高校野球大会のテーマ曲になったことから、高校球児の応援ソングに定着。『24時間テレビ』(日テレ系)の人気コーナー「チャリティーマラソン」でゴール間近の感動的な場面で毎年流されたり、CMなどで使用されたのを機にZARDを知らない若いファンも獲得している。
1995年の阪神大震災や2011年の東日本大震災でも、『負けないで』という簡潔なメッセージを多くの人がよりどころにしたという。折りに触れ人を励まして来た功績を受け、2014年4月から全国400校で高校2年生が使用する英語の教科書で「勇気が出る音楽」として掲載されることに。歌詞にこだわる坂井の生前の言葉や直筆の歌詞と共に紹介され、話題となった。
『負けないで』に代表される彼女の楽曲は日本人の心の奥深くに根付くスタンダードソングとなり、記憶に残り続けるだろう。

(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2014年8月号の記事を基に再構成]
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