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無理やり連れ去られる女性 結婚相手は「誘拐犯」

キルギスの誘拐結婚(前編)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
中央アジアのキルギスで、仲間を連れた若い男が嫌がる女性を自宅に連れていき、一族総出で説得し、無理やり結婚させる――キルギス語で「アラ・カチュー」と呼ばれる「誘拐結婚」。この驚きの「慣習」では、誘拐され、結婚を受け入れる女性もいれば、拒む女性、受け入れたものの離婚する女性もいて、それぞれに「物語」がある。フォトジャーナリストの林典子さんは、2012年7月から5カ月間、キルギスにて誘拐結婚の実態を取材・撮影。さらに約1年半後、彼女たちを追跡して1冊の写真集『キルギスの誘拐結婚』にまとめた。そこで今回、取材で出会った女性たちの中から、特に林さんの印象に残った4人の女性の「物語」を前後編に分けて紹介する。

【エピソード1】 その場の記録に徹する~ファリーダ~

仲間を連れた若い男が、嫌がる女性を自宅に連れていき、無理やり結婚させる「誘拐結婚」と訳されるアラ・カチュー(キルギス語で「奪って去る」の意)は、言葉のインパクトもあり、センセーショナルに報道されがちだ。こういったテーマを取材する際、私は自分の立ち位置について、何度も考える。目の前に起きている現実に、私は「介入」すべきなのか。

写真家がその場の状況に「介入」すべきかどうかについては、さまざまな意見がある。「なぜ助けずに撮影するのか」という批判がある一方、「活動家でもない写真家が介入するのはプロ意識に欠ける」という見方もある。正解はないと思っている。その場の複雑な人間関係、そこに根付いた価値観や「文化」など、そこに居合わせたからこそ判断できることもある。

「介入」するかどうか、判断を迫られる事態が起きた。2012年9月21日、誘拐の現場に初めて居合わせたのだ。誘拐されたのは、20歳の大学生ファリーダ。その数日前に、誘拐を考えている男がナルイン州にいると聞き、取材に行くと、誘拐を相談している男たちがいた。その日、本当に誘拐を実行するかはわからないと言っていたが、ナルイン市に向かう彼らに、別の車でついていったところ、目の前で誘拐が行われた。

誘拐したのは、26歳のトゥシュトンベック。1年前に町で見かけたファリーダに一目ぼれをしていた。二人が顔を合わせたのは、誘拐当日までで、たったの3回だ。ファリーダは、友人とナルイン市内を散歩中に突然誘拐された。冒頭の写真は、トゥシュトンベックがファリーダをナルイン州にある中国国境近くの小さな村に車で連れていく途中、何度か停車したときに撮ったものだ。

この時、私はその場の記録に徹することにした。キルギスでの取材を始めてから2カ月余りがたち、キルギスの誘拐結婚には、女性が「家に帰りたい」と言いつづければ帰さなければならないという「暗黙のルール」があることがわかっていたからだ。

実際、ファリーダは抵抗しつづけた。私はその様子を逃さず記録するために、シャッターを切りつづけた。その後、ファリーダは隙を見て母親に携帯電話で連絡。誘拐から10時間後、兄が助けに来た。トゥシュトンベックの親族はそれでもなお説得を続けたが、誘拐から12時間がたとうとしていた午前2時すぎ、ファリーダはようやく実家へ戻ることができた。

ファリーダのようなケースは、実はまれだ。誘拐された女性の実に8割が結婚を受け入れるといわれている。次のエピソードでは、誘拐され、結婚を受け入れたある女性を紹介する。この女性の取材中、私は思わぬ形で「介入」することになる。

【エピソード2】 写真家が「介入」するとき~アイティレック~

先のエピソードで述べたように、キルギスの誘拐結婚の取材では、自問自答をしながらも、できるかぎりその場の状況に「介入」せず、記録に徹することにした。女性が「家に帰りたい」と言いつづければ帰さなければならないという「暗黙のルール」があることがわかったからだ。

しかし、もし私の目の前で、女性の意思を無視し、無理やり結婚式を始めたり、彼女たちがレイプされそうになったりした場合には、介入して救出する、と決めていた。

この一連の取材で、私が「介入」したケースがただ一つある。18歳のアイティレックだ。2012年9月10日、アイティレックは、前日に首都ビシケクで会った男、バクティエル(22歳)にドライブに行こうと誘われ、車に乗り込んだところを誘拐された。私はバクティエルが誘拐を考えていると聞き、取材を申し込んで待ち合わせていたところ、やってきた黒いワゴン車の中に乗っていたのが、彼女だった。

アイティレックは、バクティエルの求婚を拒否して、抵抗していたわけではない。好意を抱いていたバクティエルからの求婚を、アイティレックは誘拐直後に承諾していた。しかし、アイティレックが連れて行かれたのは、イシク・クル州の大草原にぽつんと立つ家。ビシケクから車で9時間もかかり、携帯電話も通じない。冒頭の写真は、車の中から大草原を眺めているアイティレックを撮影したものだ。

昨日まで都会で暮らしていた若い女性が、こんな場所にたった一人置き去りにされて、暮らしていけるのだろうか。そうアイティレックに尋ねると、「大丈夫です。ちゃんとここで生活していきます」と答える。本当は結婚後のアイティレックの日常を数日間撮影したかったが、他の場所でどうしても外せない取材があり、その場をあとにした。

アイティレックのことは、その後も気にかかっていた。そこで、彼女が誘拐で結婚してから1カ月半後の2012年11月、再び彼女を訪ねた。穏やかな表情で出迎えてくれたが、かなりやせ、一気に年を取ったように見えた。夫のバクティエルのいない場所で話しはじめると、彼女は突然泣き出した。夫から暴力を振るわれているのだという。いったんは牧場から自力で逃げ出そうとしたが、連れ戻されていた。

私はこの時、「介入」して救出しなければと判断した。アイティレックは実家に連絡しようにも、大草原で電話が通じず、助けを求められないでいたのだ。その場でビシケクに連れていくことも考えたが、通訳やドライバーから彼女の身に危険が及ぶかもしれないと止められたため、いったん彼女をその場に残し、状況を警察と人権団体に報告した。

別れ際、アイティレックは「早くこの家から出たい。なぜあの日、結婚を受け入れたのか、自分が信じられない」と泣いた。キルギスでは、誘拐された女性の8割が結婚を受け入れるといわれているが、アイティレックのように結婚後に暴力を振るわれる例も後を絶たない。

アイティレックとバクティエルはその後、協議の上、別れたと、通訳とドライバーに聞いた。一方、誘拐で結婚し、その後、穏やかな家庭生活を送る女性たちもいる。次回、「後編」では、誘拐され、結婚を受け入れた女性たちの、その後の暮らしを紹介する。

林 典子(はやし・のりこ)
 1983年生まれ。フォトジャーナリスト。大学在学中に、西アフリカ・ガンビアの地元新聞社、ザ・ポイント紙で写真を撮りはじめる。「ニュースにならない人々の物語」を国内外で取材。ナショナル ジオグラフィック日本版で、2012年9月号「失われたロマの町」、2013年7月号「キルギス 誘拐婚の現実」を発表。キルギスの誘拐結婚の写真は世界的に広く注目され、フランスの報道写真祭の特集部門で最高賞、全米報道写真家協会フォトジャーナリズム大賞の現代社会問題組写真部門で1位を受賞。その他、米ワシントン・ポスト紙、独デア・シュピーゲル誌、仏ル・モンド紙、デイズ・ジャパン誌、米ニューズウィーク、マリ・クレール誌(英国版、ロシア版)など、数々のメディアで作品を発表。著書に、『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳 ―― いま、この世界の片隅で』(岩波書店)。

[日経ナショナル ジオグラフィック社『キルギスの誘拐結婚』を基に再構成]

[参考]『キルギスの誘拐結婚』――若い男が女性を連れ去り、男の親族が総出で説得して結婚させる「誘拐結婚」。中央アジアのキルギスで行われている衝撃の「慣習」を、世界規模の報道写真祭で最高賞を受賞した写真や追加取材の写真、計76点でつづる。フォトジャーナリスト林典子、待望の初写真集。「単なる告発やニュースに終わらないドキュメンタリー」として、より多面的に深く、誘拐結婚の実態を伝えています。

キルギスの誘拐結婚

著者:林 典子
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:2,808円(税込み)

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