内部登用には時間がかかるとして、まずは女性社外取締役の登用を検討する企業もあるだろう。
「社外取締役の候補となる女性を紹介してもらえませんか」。

特定非営利活動法人(NPO法人)日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク事務局長の富永誠一さんのもとには、今年に入ってからこんな問い合わせが増えている。
同法人に登録する社外取締役候補200人のうち、女性は30人。3分の2は、役員の経験がある人たち。残り3分の1は未経験ながら、会計士、弁護士、大学教授など経営に関する何らかの専門性を持っており、同法人で役員育成研修を受けている(図4)。「上場企業の社外取締役として不足はない。企業側が有名人でないとダメという縛りをはずせば、実は候補となる人はいる」(富永さん)
役員候補となる女性がいない、どこに問い合わせたらいいのか分からないという企業の声に応えるため、政府主導で「女性社外取締役候補のデータベース」を作ることも検討されている。政府審議会の女性委員データベースを、本人の許可を得て企業に公開するといったものだ。欧州でも候補者不足の状況に変わりはなく、EUの後押しで欧州の有名ビジネススクールの卒業生など8000人の女性役員候補リストが作られ、この3月から世界各国で展開する人材紹介会社に提供されている。
候補の「見える化」には意味があるだろう。しかし社外取締役として迎えたとしても、企業側に受け入れ態勢が整っていないと生かし切れない。
ある女性社外取締役は、「正論ばかり振りかざして困る」と社長から退任を求められたことがある。複数の会社で社外取締役を務めた経験があり、前職と同様、おかしいと思うことは率直に提言してきた。会社によって企業文化に違いはある。企業統治がオープンな会社では彼女の提言は受け入れられたが、まだまだ根回し文化が残るこの会社では煙たがられてしまったのだ。企業の側には、「形を整える」ためではなく、女性社外取締役という異分子を企業の成長戦略にいかにつなげるかという意識が必要だろう。一方、外から飛び込む取締役の側にも、経営能力にとどまらず、経営陣との信頼関係を地道に築いた上で発言するといった高度なコミュニケーションスキルが求められる。
内外から高まる「女性役員1人」への圧力。ただし外圧を受けての抜擢には、リスクも伴う。適材適所でない人材を就けては役員会の質の低下につながりかねない。まずは「なぜ女性役員が必要なのか。なぜ役員に多様性が求められるのか。企業価値を上げるために役員会はどうあるべきか。役員会の在り方そのものを見直すことから始めるべきだ」と富永さんは指摘する。
文化風習の異なるグローバル市場で戦い、多様化する国内市場に対応するには、生え抜きの日本人男性だけで経営のかじ取りをしていては立ち行かない。女性役員の登用は、役員会、そして企業統治のあり方そのものを問い直す契機となるだろう。
(日経マネー副編集長 野村浩子)