女性役員の増員、経済同友会は「前向き」、経団連は「及び腰」

安倍晋三首相は4月末に、女性社員が活躍できる環境づくりを求めて、経済3団体に要請書を手渡した。現在、上場企業で1.2%の女性取締役比率。もしも全上場企業に女性役員が1人でも誕生すれば、その数は現在の約500人から3600人超へと一気に押し上げられる。これに対して、経済団体の中でも受けとめ方には温度差がある。
経済同友会は、前向きだ。2012年5月、「2020年までに女性役員の登用も視野に入れ、女性管理職30%以上を目指す」という経営者宣言を出し、昨年秋から役員候補者研修の「女性枠」を男性の2倍として育成に力を入れる。一方、経団連は「まずは実態把握のために調査が必要。判断は会員企業にゆだねる」(広報)と腰が引けている。
「日本は欧米に比べると周回遅れどころか4周ほど遅れている」(佐久間さん)現状の中で、経済団体への要請だけでは、海外並みの女性役員比率に追いつけないことは明らかだ。変化を加速するには、一段踏み込んだ政策が必要だろう。そのための方法には、大きく2つある。
1つは女性役員比率を30%また40%以上など、一定数の女性役員の登用を企業に義務づける「クオータ制(割当制)」である。EU全体での法制化は雲行きが怪しくなってきたものの、欧州を中心にいくつかの国で導入が進んでいる。ノルウェーが役員会の女性比率40%を既に義務付けているほか、フランス、スペイン、イタリアでも法制化されている。アジアでは唯一マレーシアが「上場企業に女性役員30%を2016年までに義務付ける」として、政府主導で5年以内に1000人の役員候補を育てるプログラムを始めた。
もう1つは女性管理職や役員の数値を公表するといった「見える化」である。日本でも2012年末に「有価証券報告書」に女性管理職・取締役比率を記載することが検討されたものの、経団連や金融庁の反対をうけて義務化は見送られた。そのかわりに「コーポレートガバナンス報告書」への記載が促されることになり、既に一部企業では取り組みが始まっている。
・ノルウェー 2008年以降、上場企業に40%以上
・フランス 2017年までに、従業員500人以上の上場・非上場企業*に40%以上
・スペイン 2015年までに、従業員250人以上の上場企業に40%以上
・アイスランド 2013年までに、従業員51人以上の国営企業、株式会社に40%以上
・イタリア 2015年までに、国営企業、上場企業に33%以上
・ベルギー 2019年までに、国営企業、上場企業に33%以上
・オランダ 2016年までに、従業員250人以上の有限責任会社*に30%以上
・マレーシア 2016年までに、上場企業に30%以上
*年商や保有資産などの条件もある
◆英国
上場企業の年次報告書で、役員指名プロセスとともに、役員会のジェンダー・ダイバーシティーに関する方針、目標、達成状況などの報告が求められている(2012年10月1日以降に開始する事業年度から)
◆米国
米証券取引委員会(SEC)のガバナンス開示規制により、指名委員会が取締役候補者を特定する際には、候補者の多様性を考慮しているか、その方法についての開示も求める。取締役会に求められるスキルおよび経験についての説明も義務付け
◆オーストラリア
オーストラリア証券取引所(ASX)コーポレートガバナンス原則の中で、すべての上場企業に全組織および取締役会の女性割合、ジェンダー・ダイバーシティーの目標値および進捗状況等の公開が求められている