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候補者どう選ぶ 「女性役員1人」へ高まる外圧

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NIKKEI STYLE

 「上場企業に女性役員を少なくとも1人」。安倍晋三政権が打ち出した成長戦略の女性活躍推進策に、こうした目標が掲げられた。上場企業ではまだ1.2%にとどまる女性取締役比率に、海外投資家からは厳しい目が向けられている。なぜ女性役員を増やすことが必要なのか。役員候補となる女性がいない中、どんな手立てが有効なのか。[注]

海外投資家は「女性取締役比率」を常にウオッチ

安倍晋三政権が成長戦略で掲げた「女性役員を上場企業に1人」。こんな目標を掲げた背景には、海外から大きく後れを取っている現実がある。日本の上場企業の女性取締役比率は1.2%、先進国に目を向けると大半は10%を超える(図1)。世界全体で見ると、日本の女性取締役比率は圧倒的に低い。実はこのデータは、海外投資家に厳しい目でチェックされている。

ブルームバーグは投資家からの要望を受けて、2009年に「ESG投資」のデータ提供を始めた。ESG投資とは、環境(Ecology)、社会(Social)、企業統治(Governance)に関する企業データをもとに投信判断を行うもの。同社が提供する350を超えるESG項目のなかで「女性取締役比率」は常に検索項目トップ10に入る。ブルームバーグを通じて世界中に発信される東証一部上場企業約1700社の企業データは、海外投資家から常に「女性取締役比率」という視点でチェックされているわけだ。

その理由は明確だ。「海外投資家は、女性取締役のいる会社のほうがリターンが高いと分かっているからです」。同社のESGアナリスト黒崎美穂さんは言い切る。欧米では女性取締役が3人以上いる企業は、そうでない企業に比べて業績がいいという分析は、米マッキンゼー・アンド・カンパニーなど各社から発表されている。日本でも黒崎さんの分析によると、2008年からの5年間、女性取締役が1人でもいる東証一部上場企業の業績はTOPIX(東証株価指数)を常に上回る(図2)。リーマン・ショック以降に株価低迷が続く中で下落幅が小さく、昨年末からのアベノミクス以降は上昇幅が大きい。2008年からのトータルリターンでみると、TOPIXマイナス11.11%に対し、女性取締役のいる企業はプラス23.83%と大きく差がついている。

取締役会は、性別・国籍・年代・業務経験など多様な役員で構成すべき。そうした『ボードダイバーシティー』の重要性は、もはや欧米では共通認識となっている」というのは、欧州連合(EU)のCSRと企業統治に関する政策調査・コンサルティングを行うSA&C(本社ベルギー・ブリュッセル)代表の佐久間京子さん。例えば新興国市場を切り開こうというときに、取締役全員「同じ業界で経験を積んだ、50~60代フランス人男性のみ」ではマネジメントのリスクが高いという考えが常識となりつつある。

EUでは社外取締役における女性役員比率40%を法律で義務付ける「クオータ制」の導入が検討されてきたが、経済団体の反対により見送られる公算だ。そのかわり、この秋から「ボードダイバーシティーのデータ開示義務づけの議論が進むだろう」と佐久間さん。EUと米国は7月にも始める自由貿易協定(FTA)交渉でさまざまな規制のすり合わせを行う予定で、「ボードダイバーシティーのデータ開示が、世界標準となる」可能性があると指摘する。そうなれば、グローバル経営を進める日本企業も無縁ではいられない。

[注] 「女性役員」は執行役員、取締役、社外取締役、監査役のいずれかを指すとされる。女性取締役比率には、女性執行役員は含まれない。女性取締役比率は2011年5月現在。

女性役員の増員、経済同友会は「前向き」、経団連は「及び腰」

安倍晋三首相は4月末に、女性社員が活躍できる環境づくりを求めて、経済3団体に要請書を手渡した。現在、上場企業で1.2%の女性取締役比率。もしも全上場企業に女性役員が1人でも誕生すれば、その数は現在の約500人から3600人超へと一気に押し上げられる。これに対して、経済団体の中でも受けとめ方には温度差がある。

経済同友会は、前向きだ。2012年5月、「2020年までに女性役員の登用も視野に入れ、女性管理職30%以上を目指す」という経営者宣言を出し、昨年秋から役員候補者研修の「女性枠」を男性の2倍として育成に力を入れる。一方、経団連は「まずは実態把握のために調査が必要。判断は会員企業にゆだねる」(広報)と腰が引けている。

「日本は欧米に比べると周回遅れどころか4周ほど遅れている」(佐久間さん)現状の中で、経済団体への要請だけでは、海外並みの女性役員比率に追いつけないことは明らかだ。変化を加速するには、一段踏み込んだ政策が必要だろう。そのための方法には、大きく2つある。

1つは女性役員比率を30%また40%以上など、一定数の女性役員の登用を企業に義務づける「クオータ制(割当制)」である。EU全体での法制化は雲行きが怪しくなってきたものの、欧州を中心にいくつかの国で導入が進んでいる。ノルウェーが役員会の女性比率40%を既に義務付けているほか、フランス、スペイン、イタリアでも法制化されている。アジアでは唯一マレーシアが「上場企業に女性役員30%を2016年までに義務付ける」として、政府主導で5年以内に1000人の役員候補を育てるプログラムを始めた。

もう1つは女性管理職や役員の数値を公表するといった「見える化」である。日本でも2012年末に「有価証券報告書」に女性管理職・取締役比率を記載することが検討されたものの、経団連や金融庁の反対をうけて義務化は見送られた。そのかわりに「コーポレートガバナンス報告書」への記載が促されることになり、既に一部企業では取り組みが始まっている。

欧州中心に海外では女性役員クオータ制導入が進む
・ノルウェー 2008年以降、上場企業に40%以上
・フランス 2017年までに、従業員500人以上の上場・非上場企業*に40%以上
・スペイン 2015年までに、従業員250人以上の上場企業に40%以上
・アイスランド 2013年までに、従業員51人以上の国営企業、株式会社に40%以上
・イタリア 2015年までに、国営企業、上場企業に33%以上
・ベルギー 2019年までに、国営企業、上場企業に33%以上
・オランダ 2016年までに、従業員250人以上の有限責任会社*に30%以上
・マレーシア 2016年までに、上場企業に30%以上
*年商や保有資産などの条件もある
海外の証券市場で、男女別データの情報開示を求める取り組みの一例
◆英国
 上場企業の年次報告書で、役員指名プロセスとともに、役員会のジェンダー・ダイバーシティーに関する方針、目標、達成状況などの報告が求められている(2012年10月1日以降に開始する事業年度から)
◆米国
 米証券取引委員会(SEC)のガバナンス開示規制により、指名委員会が取締役候補者を特定する際には、候補者の多様性を考慮しているか、その方法についての開示も求める。取締役会に求められるスキルおよび経験についての説明も義務付け
◆オーストラリア
 オーストラリア証券取引所(ASX)コーポレートガバナンス原則の中で、すべての上場企業に全組織および取締役会の女性割合、ジェンダー・ダイバーシティーの目標値および進捗状況等の公開が求められている

日本でもクオータ制導入を呼びかける声があるが、経済界には反対の声が多い。米シカゴ大の山口一男教授もまた「日本にはまだ役員候補となる女性が少なすぎる。クオータ制で『結果の平等』を目指すと無理が生じる」として、「見える化」により変化を促すべきだとする。参考となるのが、韓国の取り組みだという。韓国では従業員500人以上の企業に対して、女性雇用比率や管理職比率など現状データの提出を求め、同業種の平均値60%未満の企業に対して改善計画を立てるように指導した。この「積極的雇用改善措置」により、2006年以降は女性管理職比率が毎年約1ポイントずつ上昇している。

資生堂顧問の岩田喜美枝さんもまた、「クオータ制は日本で受け入れられる可能性はほとんどない」とした上で、違う形での「数値目標」策定を提案する。次世代育成支援対策推進法のもと、ある一定規模の企業に対して女性管理職・役員の育成計画づくりを義務付けるものだ。「そうすれば社長管轄のテーマとなり、経営課題として取り組むことになります」

そもそも女性役員の候補がいない

「女性役員1人」という目標は危険だという声も上がる。1人だと、その人が「女性代表」と見られかねない。

理想を言えば「3人以上」だろう。女性役員も3人いれば三者三様、性差のみならず個性による違いが現れる。1人だけが目立ってつぶされる危険もなくなる。しかし今は候補となる人材が払底している。まずは1社に女性役員1人という目標が、最初の一歩としては現実的かもしれない。

資生堂顧問の岩田さん(前出)は今、キリンホールディングス社外監査役、日本航空社外取締役も務める。いずれも役員会では紅一点。「1人だとつぶされかねない」という意見には、自身の経験から反論する。役員会の人数を絞り込んでいる今、多くの企業はお飾りの女性役員を置く余裕などない。「女性役員を入れて、議論を変えたいという経営の意思を感じる。とにかく意見を求められるから、1人でも臆することはない」と言う。

今回の成長戦略に掲げる「女性役員1人」は、執行役員、取締役、社外取締役などのいずれかを指す。男女雇用機会均等法の施行から27年、当初から女性総合職を育ててきた企業ならば「役員適齢期」の女性管理職がいてもおかしくはない。しかし、「生え抜きの女性役員を誕生させたいものの、そのレベルの人材がまだ育っていない」とは、企業からよく聞かれる声だ。日本の女性管理職比率は、現在11.1%。欧米先進国が30%超なのに比べると、まだまだ役員候補となる管理職さえ少ないことが分かる(図3)。

NTTドコモ執行役員で、この6月にグループ内の食材宅配会社らでぃっしゅぼーや社長に就任した井手明子さんは、「ポストが人を育てる」として、後進の女性管理職に次にどんな仕事を任せるか、人事の相談にのる。女性管理職を育てるために座学の研修を重ねても、実務能力は磨かれない。異動を重ねながら、より難度の高い仕事に就ける。人事と上司が連携しながら育成計画を進めることが、女性役員候補を育てていくことにつながる。

「役員候補となるような女性部長はいないのですか」

資生堂の取締役時代、岩田さんは繰り返し現場に問いかけた。役員候補となる部長十数人を選抜して研修を行うにあたり「ほっておくと、研修に呼ばれる女性はゼロになってしまう。女性を複数入れるためには働きかけが必要なのです」。入社時には優秀だった女性でも男性社員に比べると仕事で経験を積む機会が限られたケースが少なくない。長年の積み重ねで開いてしまった「差」は「育成機会の優遇」で埋めるしかない。女性の役員候補を育てるには、経営が意思をもってトップダウンで進めることが不可欠だという。

内部登用には時間がかかるとして、まずは女性社外取締役の登用を検討する企業もあるだろう。

「社外取締役の候補となる女性を紹介してもらえませんか」。

特定非営利活動法人(NPO法人)日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク事務局長の富永誠一さんのもとには、今年に入ってからこんな問い合わせが増えている。

同法人に登録する社外取締役候補200人のうち、女性は30人。3分の2は、役員の経験がある人たち。残り3分の1は未経験ながら、会計士、弁護士、大学教授など経営に関する何らかの専門性を持っており、同法人で役員育成研修を受けている(図4)。「上場企業の社外取締役として不足はない。企業側が有名人でないとダメという縛りをはずせば、実は候補となる人はいる」(富永さん)

役員候補となる女性がいない、どこに問い合わせたらいいのか分からないという企業の声に応えるため、政府主導で「女性社外取締役候補のデータベース」を作ることも検討されている。政府審議会の女性委員データベースを、本人の許可を得て企業に公開するといったものだ。欧州でも候補者不足の状況に変わりはなく、EUの後押しで欧州の有名ビジネススクールの卒業生など8000人の女性役員候補リストが作られ、この3月から世界各国で展開する人材紹介会社に提供されている。

候補の「見える化」には意味があるだろう。しかし社外取締役として迎えたとしても、企業側に受け入れ態勢が整っていないと生かし切れない。

ある女性社外取締役は、「正論ばかり振りかざして困る」と社長から退任を求められたことがある。複数の会社で社外取締役を務めた経験があり、前職と同様、おかしいと思うことは率直に提言してきた。会社によって企業文化に違いはある。企業統治がオープンな会社では彼女の提言は受け入れられたが、まだまだ根回し文化が残るこの会社では煙たがられてしまったのだ。企業の側には、「形を整える」ためではなく、女性社外取締役という異分子を企業の成長戦略にいかにつなげるかという意識が必要だろう。一方、外から飛び込む取締役の側にも、経営能力にとどまらず、経営陣との信頼関係を地道に築いた上で発言するといった高度なコミュニケーションスキルが求められる。

内外から高まる「女性役員1人」への圧力。ただし外圧を受けての抜擢には、リスクも伴う。適材適所でない人材を就けては役員会の質の低下につながりかねない。まずは「なぜ女性役員が必要なのか。なぜ役員に多様性が求められるのか。企業価値を上げるために役員会はどうあるべきか。役員会の在り方そのものを見直すことから始めるべきだ」と富永さんは指摘する。

文化風習の異なるグローバル市場で戦い、多様化する国内市場に対応するには、生え抜きの日本人男性だけで経営のかじ取りをしていては立ち行かない。女性役員の登用は、役員会、そして企業統治のあり方そのものを問い直す契機となるだろう。

(日経マネー副編集長 野村浩子)

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