[ナショジオ]木星の衛星エウロパに生命は存在するか
宇宙生物学のいま
ここは米国アラスカ州の湖。厚さ30センチの氷の下で何かが光り、「成功だ!」と歓声が上がった。
極寒の湖で氷に開けた穴を見つめているのは米航空宇宙局(NASA)の研究者たち。カリフォルニア州にあるNASAジェット推進研究所から送られた電子信号を受信して、氷の下をはい回る小さな無人探査機がヘッドライトをつけたのだ。
実はこの探査機の試運転は、木星の衛星エウロパの探査に向けた、最初の小さな一歩だという。その目的はなんと、地球外生命を探すことだ。
水のあるところに生命あり?
私たちが知っているような生命が存在するには、液体の水が不可欠だと生物学者は考えている。水は栄養分を溶かし込み、全身に送り届ける強力な溶媒として働くからだ。
木星の衛星エウロパは、表面を厚い氷に覆われている。太陽から約8億キロメートルも離れているので、水は深いところまでカチカチに凍っていると考えるのが当然だ。しかし、エウロパは木星や他の衛星との潮汐作用によって絶えず変形し、熱を生じているため、氷の下には液体に保たれた水があるという。エウロパの表面に走る無数の亀裂が、氷の下に液体の水でできた海がある証拠だ。
エウロパにあるのは、液体の水だけではない。海底には地球と同じような熱水噴出孔があるかもしれないし、地表にぶつかる彗星(すいせい)は有機物をもたらしてくれる。木星から飛んでくる荷電粒子は、エネルギー豊富な化合物を生成する。つまり、生命の基本的な材料がそろっている可能性が高いのだ。
わからないのは、それらの化学物質が厚さ15~25キロメートルもありそうな氷の下まで到達する道筋だった。だが氷にはたくさんの亀裂がある。
2013年前半には、米国の研究者チームがケックII望遠鏡を使って、エウロパの海の塩分が、おそらくそうした亀裂を通して惑星の表面に達していることを示した。同年後半にはハッブル宇宙望遠鏡を使った別のチームが、エウロパの南極から液体の水が噴出していることを報告している。
これらの発見により、エウロパへの探査機派遣を望む声は高まっている。実のところ、エウロパを周回する探査計画が一度は立案されたが、47億ドルの費用を要するこのプランはあまりに高額として、見直しが進められていた。
そこでロバート・パッパラルド率いるNASAのジェット推進研究所のチームは計画を一から練り直し、探査機にエウロパではなく木星を周回させることで、燃料と経費の節減に努めた。探査機は45回ほどエウロパに接近し、表層や大気の化学組成を調べ、間接的には海の組成も調べる計画だ。
2020年代にエウロパ探査へ
修正案の経費は20億ドル以内に収まるだろうとパッパラルドは言う。承認されれば、2020年代前半から半ばまでには打ち上げたい意向だ。アトラスVロケットを打ち上げに使用する場合、エウロパまでは約6年の旅となる。
「NASAが新たに開発中の宇宙発射システム(SLS)を使える可能性もありますよ」と、パッパラルド。「こちらは大きなロケットですから、2.7年でエウロパまで行けます」
エウロパ上空を飛ぶこの探査機で、生命を直接見つけるのは困難かもしれない。しかし、いずれエウロパに降り立つ後継機のために、化学組成の分析を進め、着陸すべき場所の候補を探すことはできるはずだ。
探査機を着陸させられたら、次はエウロパの氷の奥にある海に、探査機を下ろす作業が待っている。これは氷の厚さ次第では、かなりの難題となりそうだ。「アラスカでテスト中の探査機をアウストラロピテクスにたとえるなら、実際にエウロパの海中を調べる探査機はホモ・サピエンスのレベルまで進化しているでしょうね」と、研究者は言う。
(文 マイケル・D・レモニック)
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2014年7月号の記事を基に再構成]
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