シロアリ元気が気持ちいい 何事も虫優先の暮らし
コスタリカ昆虫中心生活
森から生きたまま持ち帰った昆虫のほとんどは、成虫ではなく幼虫。幼虫を自宅で育て、成虫になるまでの生態を観察するのだ。台所の一角に張った物干しロープに、幼虫が入った透明のビニール袋を洗濯バサミでつり下げていく。そうすると虫たちや餌となる植物がちょうど目の高さにくるので、観察がしやすい。多いときには20から30袋ほどが所せましとぶら下がっている。
ぼくがお好み焼きなどを食べながら、虫たちが食事をしているところを観察することもしばしば。たまに排便行動を目にするが……、新しい発見をしたり幼虫が成虫になっているのを見かけると、食べることそっちのけで虫の観察や写真撮影にのめり込んでしまう。お好み焼きはどんどん冷めていくのだ。
物干しロープには、もちろん洗濯ものを干さないといけないけれど、優先順位は虫たちが上。「自然保護は身の回りから」をモットーにしているぼくは、家の庭を草ぼうぼう状態にして、できるだけ多くの虫たちに住んでもらうようにしている。家の中にもシロアリや小さな蛾(が)、クモ、ヤモリなんかが、元気よく住んでいる。生態系のバランスがとれている中で過ごすことは、気持ちの良いものだ。
雨期の到来。天井から降ってくるのは…
2013年まで、コスタリカ、イラス火山のふもと、標高1420mにあるコロナドという小さな町で、古くて薄っぺらい木造の家を借りていた。前の道路を大きな車やトラックが走ると、震度1~2の揺れを感じるような家だ。バイクは轟音(ごうおん)を立てて走り去り、隣の家の犬たちは無駄によくほえるし、住み心地はかなり好ましくない。そんな生活も学者貧乏ならではなのだが……ぼやいても始まらない。
さて、雨期が始まると、コスタリカでは天気予報はあまり意味がなくなる。午後には必ずといっていいほど、毎日雷雨に見舞われるからだ。大粒の雨がダーッと降ってきて、トタン板1枚の屋根をバシバシと響かす。ラジオは聞こえなくなるけれど、周りのうるさい音もかき消してくれる。車の騒音に比べれば、屋根をたたく雨音のほうがよっぽど気持ちいい。
今のところ部屋に雨は降ってこない。豪雨でも、洗濯場が少し雨漏りするくらいだ。けれどこの部屋には、雨期、乾期を問わず、天井や壁のすき間から降ってくるものが2つある。ひとつは天井裏に降り積もった火山灰。1963年から1965年にかけて噴火したイラス火山の灰だ。もうひとつは、シロアリの糞(ふん)。24時間休むことなく、ポロポロ、ポツポツと降り続けている。
昆虫学者。1972年、大阪府生まれ。小さいころから、生き物を相手にわが道を行く。中学卒業後、単身、米国の高校に入学。大学では小さい頃の生物に対する思いが高まり、生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカ大学の調査員として、米国政府のハワイ州の外来侵入植物対策プロジェクトに参画する。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2011年6月21日、同7月5日付の記事を基に再構成]
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