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「合わない」相手と付き合う理由

30代女子リアル婚活物語(2)

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NIKKEI STYLE

 婚活をした女性たちが、婚活を通じて、幸せになったかどうか。何を得て、何を失ったのか――。『婚活難民』(光文社)の著者・にらさわあきこ氏が取材した30代女子のリアルな婚活事情を取り上げる本コラム。紹介サイト編に登場するのは、都内でひとり暮らし中の山下聡美さん(仮名)だ。

聡美さんは、切れ長の瞳と卵形の輪郭を持つ、いかにも現代風の美人だ。美人というより、正確にいうと流行の「大人女子」というイメージ。存在自体が華やかで、とても元気がいいのである。

「私、今、3つの婚活サイトに登録しているんです。大手1つと中堅2つ。しかも大手は一度止めていたのを、昨日再開したところなんです」

あら、タイムリーですね、というと、「この日のために入ったみたいですね」といってまた、大きく笑った。

私たちは、聡美さんが行きつけだという駅そばの雰囲気のあるカフェに入った。

おなかが空いているという彼女は、チーズトーストとコーヒーを、私は聡美さんに薦められたアイスティーを注文した。

改めて挨拶を済ませると、私は仕切り直して聞いた。

「そもそも、聡美さんはどうして婚活を始めたんですか?」

「そうですね。私には、1歳違いの弟がいるんですが、彼が30歳のときに結婚を決めたんです。それで母から、『あんたはどうなの?』といわれるようになりまして、『そうだ、結婚しなきゃ』って思うようになったんです」

そうなると、ひとりで過ごす休日が、急に寂しく思えてきた。

「20代のころは仕事も忙しかったので、休日は寝てるか、働いているか、考えなくても誰かに誘われて、いつも何かをしてました。でも、今はそれじゃダメで、前もって計画を立てておかないと、休日をもてあましてしまうんです。30歳を越えてから休日をひとりで過ごすのって、ほんと、寂しいものですよ」

ここで、注文の品が運ばれてきたので、彼女は急に小声になって、「聞かれちゃいましたかねえ?」と、はにかんだ。

チーズトーストには、きれいな野菜サラダが添えられていて、美しく盛りつけられていた。薦められたアイスティーは、ていねいに淹れられた紅茶特有の濃厚さがあって、とても味わい深かった。

「おいしいですね」と私がいうと、

「そうでしょう? 私、おいしいものや美しいものが好きなんです。だから、結婚相手には、同じ感覚を求めたいんです。たとえば、休日は一緒に美術館や映画館に行きたいし、『いいね』と思う作品が同じであってほしいんです」

「へえ、でも映画なんか、何を見てもそれなりに楽しいんじゃないですか?」

と、私がなにげなくいうと、

「それって、『踊る大捜査線』でもですか?」

と、彼女は憤慨して答えた。

なんでも春先に3回デートした相手と映画を見に行くことになったとき、聡美さんの希望が却下されたので、怒っているのだとか。

「だって、そうまでして見たいのが、『踊る大捜査線』だなんて、どうしても納得できなかったんです」

なるほど、そんな視点もあるのかと、私は少し感心した。そして、人の視点てさまざまなものだなあと、改めて感じた。

ところが、そんな「合わない」男性と、聡美さんはつきあっていた。

「だって、彼は研究者だったんです。しかも英語が話せて、海外に留学したいというんですよ。そしたら、これはもう彼で決めたいと思うじゃないですか?」

なぜ?

「震災後に会ったからですね。私、今もそうですが、日本に住むのが怖いんです」

大切な秘密を打ち明けるように、彼女は真面目な顔をしていった。

出会いを求めてサイトに登録

聡美さんの婚活の舞台は、インターネットの紹介サービスだ。

活動期間はおよそ1年。弟の結婚話が出た去年、31歳のときにスタートした。

「だって、出会いがないんです。これはもう、本当に深刻ですね。私、内勤なんですが、一緒に仕事をしているのは、全員女性なんですよ。しかも取引先の人たちも、女性か既婚のおじさんばかり。どこに行けば、独身男性に出会えるのって感じです」

ネットにしたのは、前の会社の同僚に薦められたから。

元同僚は、自分のともだちがネットで結婚したのをきっかけに、自分も入会したばかりだった。そこで、聡美さんにも2人で「家飲み」をしたときに、自分の活動している画面を見せながら説明してくれたのだ。

「見ると、確かにすごくいいんです。最初のページに、『こんな男性が活動しています 』というコーナーがあるんですが、そこを開くと、ズラズラーッと顔写真つきで結婚したい男性たちが出てくるんです。それを見た瞬間に、『ああ、世の中には、こんなにもたくさんの結婚したい男性たちがいるのか』とすごく衝撃を受けまして、一気に未来が開けた気がしました」

しかも写真を見る限りでは、とりたてて変な男性もいない。ごく普通の男性たちが、ここでは結婚したがっていて、そのうちの何人かは、彼女の元同僚の女性を「お気に入りだ」と表明しているのだ。遠いものだとばかり思っていた結婚が、急に身近に感じられてきた。

「『いいでしょう?』と、彼女にいわれて、『うん』とうなずいていました」

そこで、家飲みから帰ると、聡美さんは急いで登録の作業をした。登録が許可されるまでに1日はかかると聞いていたからだ。

「申し込みをした翌日は、気になって仕事が手につきませんでした。確か、お昼くらいだったかな、『登録ができました』とメールが来たので、自分のページを見に行くと、まだ数分しか経ってないのに、私を『お気に入り』にしてくれている人が、60人もいたんです。もう、ものすごーく嬉しくなって、『ヤッター、これで結婚できるー』って、本気でそう思いました」(つづく)

にらさわあきこ
NHKディレクターを経て文筆業に。500人を取材して書いた『必ず結婚できる45のルール』(マガジンハウス)や、崖っぷち婚活隊と全国の寺社を巡ったコミックエッセイ『婚活の神様!』(幻冬舎コミックス)など恋や結婚に関する著書多数。近著に『婚活難民』(光文社)

[nikkei WOMAN Online 2013年2月19日掲載]

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