精子バンクを利用する独身アラフォー女性の選択米国NPの診察日記 緒方さやか

2013/9/13
米国の医療機関などで働きながら、出産・育児を経験した著者が、仕事・出産・子育て・文化の違いなど、さまざまな切り口で、米国社会とそこで働く女性の現状を紹介。読めばリアルな米国が見えてきます。さて、今回取り上げるテーマは精子バンク。あるシングル女性が、精子バンクを活用して子どもを持ちたいと、事前に必要な健康診断を受けにきたのだとか。

「今日は、どうしましたか?」

その日の患者さんは、37歳の事務職のシングルマザーの女性だった。

「健康診断を受けにきました。この書類にサインが必要なんです」

職場で健康診断が課されているのかな、と手に取ってみると、その無機質な書類の真ん中には「健康な女性であることを確認します。サイン:」とタイプしてあり、精子バンクのロゴが付いていた。

「精子バンクを使おうか」と冗談で話す友人はいても、本当に精子を購入することを決めた人は知らない。患者さんのこのような書類にサインするのも初めてだった。

精子バンクは「家庭を持ちたい」望みを支える重要な存在

彼女は、昔のボーイフレンドとの間にできた5歳の娘を、近所に住む自分の母親の手を借りながら育てていて、 娘のためにももう一人子どもが欲しいと願っていた。「一生を共にしたいと思う男性とはいまだに出会ってないの」とため息をつきつつ、「40歳になる前にもう一人産んでおきたい」との思いから、精子バンクを利用することに決めたと話してくれた。相手の写真やビデオ、学歴などを見ながら選んだ精子を数百ドルから数千ドルで手に入れ、自分の排卵のタイミングに合わせて、注入するのだという。

写真はイメージ

数年前までの私だったら、キャリアを模索して伴侶を探す時間が乏しく、40歳近くになって探し始めたら相手が見付からず、それでも子どもが欲しいと願う女性に対し、自分の人生を自分の手で決める手段として、精子バンクを活用することにためらいもせず賛成していただろう。もちろん、子育ては簡単なことではないだろうが、米国は片親でも子どもを育てやすい環境が比較的整っているからだ。

女性が子どもを産める期間は限られている。女性が男性と同じ戦場でキャリアを求めて刃を交える現代社会では、精子バンクはそのような女性の「家庭を持ちたい」という望みを支える重要な存在なのである。また、子どもが欲しくて精子バンクにまで行って妊娠した女性の方が、「できちゃった」後にためらいつつも産む女性より、母親として劣っているとは、決して言えないのではないだろうか。

キャリアと家庭との両方を追い求めることは、男女に関係なく認められるべき権利だと信じているが、そんな現代人の貪欲さのおかげで大金を得ている業界が存在するのも事実だ。本来、男性に原因のある不妊カップルやレズビアンのカップルのために始まった米国の精子バンクは、一般女性にも対象を広げつつ、多くの「優秀な」男性の精子を買い取り、いまや大きなビジネスに発展しているそうだ。