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精子バンクを利用する独身アラフォー女性の選択

米国NPの診察日記 緒方さやか

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NIKKEI STYLE

 米国の医療機関などで働きながら、出産・育児を経験した著者が、仕事・出産・子育て・文化の違いなど、さまざまな切り口で、米国社会とそこで働く女性の現状を紹介。読めばリアルな米国が見えてきます。さて、今回取り上げるテーマは精子バンク。あるシングル女性が、精子バンクを活用して子どもを持ちたいと、事前に必要な健康診断を受けにきたのだとか。

「今日は、どうしましたか?」

その日の患者さんは、37歳の事務職のシングルマザーの女性だった。

「健康診断を受けにきました。この書類にサインが必要なんです」

職場で健康診断が課されているのかな、と手に取ってみると、その無機質な書類の真ん中には「健康な女性であることを確認します。サイン:」とタイプしてあり、精子バンクのロゴが付いていた。

「精子バンクを使おうか」と冗談で話す友人はいても、本当に精子を購入することを決めた人は知らない。患者さんのこのような書類にサインするのも初めてだった。

精子バンクは「家庭を持ちたい」望みを支える重要な存在

彼女は、昔のボーイフレンドとの間にできた5歳の娘を、近所に住む自分の母親の手を借りながら育てていて、 娘のためにももう一人子どもが欲しいと願っていた。「一生を共にしたいと思う男性とはいまだに出会ってないの」とため息をつきつつ、「40歳になる前にもう一人産んでおきたい」との思いから、精子バンクを利用することに決めたと話してくれた。相手の写真やビデオ、学歴などを見ながら選んだ精子を数百ドルから数千ドルで手に入れ、自分の排卵のタイミングに合わせて、注入するのだという。

数年前までの私だったら、キャリアを模索して伴侶を探す時間が乏しく、40歳近くになって探し始めたら相手が見付からず、それでも子どもが欲しいと願う女性に対し、自分の人生を自分の手で決める手段として、精子バンクを活用することにためらいもせず賛成していただろう。もちろん、子育ては簡単なことではないだろうが、米国は片親でも子どもを育てやすい環境が比較的整っているからだ。

女性が子どもを産める期間は限られている。女性が男性と同じ戦場でキャリアを求めて刃を交える現代社会では、精子バンクはそのような女性の「家庭を持ちたい」という望みを支える重要な存在なのである。また、子どもが欲しくて精子バンクにまで行って妊娠した女性の方が、「できちゃった」後にためらいつつも産む女性より、母親として劣っているとは、決して言えないのではないだろうか。

キャリアと家庭との両方を追い求めることは、男女に関係なく認められるべき権利だと信じているが、そんな現代人の貪欲さのおかげで大金を得ている業界が存在するのも事実だ。本来、男性に原因のある不妊カップルやレズビアンのカップルのために始まった米国の精子バンクは、一般女性にも対象を広げつつ、多くの「優秀な」男性の精子を買い取り、いまや大きなビジネスに発展しているそうだ。

母親違いの兄弟が1都市で150人も 法整備に遅れ

 ただ、この新しいビジネスには法律が追いついていない。米ニューヨークタイムズ紙の2011年9月の記事によると、男性が精子バンクに精子を売る回数が制限されていないため、一都市内でなんと150人の異母兄弟が産まれるという困った事態が起きた。母親違いのこの子どもたち、さらには彼らの孫たちが、知らずに近親相姦の関係になる可能性がある。倫理的なジレンマはもちろん、近親相姦の結果、先天性障害などを持つ子どもの生まれる可能性を考えれば、危険な話である。イギリスやフランスなどでは、特定の男性が精子バンクを通して何人の子どもを作るかについて既に法的に制限がかけられている。

さらに、「あなたの父親は精子バンクよ」と聞いた子どもの心理的な動揺は計り知れない。1970年代、80年代に産まれた、人工授精や精子バンク第一世代が成人した今、やっと私たちは子どもたちへの影響について学び始めた。米ワシントン・ポスト紙は、そのようにして産まれた子どもたちが、父親の病歴を知らない危険性を伝えている。大人が子どもを持ちたいという欲望を、どんな手段を用いてでも果たそうとするのは、産まれる子どもにとって自分勝手な行動なのだろうか?

好きなときに一人で産むのも女性の権利?

米国にはそんな「自分勝手」を果たして有名になった人がいる。

カリフォルニア州のナディア・スールマンさん(38歳)は2009年、八つ子を産んで話題になった。彼女の場合、精子バンクでなく「ある友人」から寄与された精子を利用しての体外授精だが、無職で、両親と同居しつつ、すでに同様の手段で産んだ6人の子どもを、生活保護を受けながら育てていた。そんな彼女の身勝手な妊娠と、それを可能にした不妊症専門医(患者の希望に合わせて、12という大量の受精卵を子宮内に戻し、八つ子が産まれた後に免許はく奪となった)に、彼女の老いた両親だけでなく、アメリカ中が憤った。彼女は精神病を病んでいる、という説もあるが、このような情報を知った今、数年前のように「好きな時に一人で産むのも女性の権利だ」とは単純に言えなくなっているのである。

しかし私には、単なる健康診断で来院してきた女性の人生の選択肢に口を挟む資格はない。健康状態を確認し、お酒やタバコなどの悪影響について触れ、PRENATAL VITAMINS(妊婦用ビタミン剤。葉酸などを含み、妊娠中の女性や妊娠を計画中の女性が服用する)を処方するのが、私の仕事なのである…。

さて、冒頭で紹介した女性から、数カ月後に「妊娠しました!」と弾んだ声で電話がかかってきた。やはり精子バンクが成功したのかと、さりげなく聞いてみると、2カ月ほど付き合っている人がいて、性病検査の結果を見せ合ってから、避妊をせずに性交をしていたという。彼も、彼女の妊娠したいという望みを知っていて、協力してくれたらしい。

つまり、精子バンクは利用せずに済んだわけだ。「今のところ自分も彼も結婚するつもりはない」と彼女は言うものの、親権をシェアすることになるかもしれないし、養育費の支払い義務も発生するから、まさに一生の付き合いになる。その男性が、良い人であることと、彼女と生まれてくる赤ちゃんの、健康と幸せを願うばかりである。

緒方さやか(おがた・さやか)
婦人科・成人科ナースプラクティショナー(NP)。2006年米イェール看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。「チーム医療維新」管理人。プライマリケアを担うナースプラクティショナーとして、現在、マンハッタンの外来クリニックで診療にあたる。米ニューヨーク在住。

[日経メディカルオンライン 2011年12月1日付記事を基に再構成]

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