眠ると太る、は本当? 眠りの疑問を解決
最高の眠りのつくり方(3)
日経ヘルス
A むしろ、眠らないと太りやすくなります。
睡眠時間が短いほど肥満度が高い――。睡眠不足が肥満をもたらすことは、いくつもの研究から明らかになっている。
「慢性的な睡眠不足に陥ると、食欲を抑制するレプチンというホルモンが減少し、一方、食欲を増進させるグレリンというホルモンは増える(下グラフ参照)。睡眠をつかさどる生物時計は脳の視床下部という所にあるが、この場所は食欲などの摂食にもかかわっている。睡眠が不足することで生体リズムが崩れ、太りやすくなると考えられる」とスタンフォード大学睡眠・生体リズム研究所所長の西野精治教授は話す。
また長時間起きていると、つい食べたくなるし、睡眠不足だと日中の活動量も減る。これも太りやすさに拍車をかける。太りたくない人はたっぷり寝よう!
A 日ごろたっぷり寝ている人なら1時間くらい減らしても大丈夫かも。でも、慢性的な睡眠不足になると体へのダメージは深刻です。
睡眠時間を削って、その分、深い睡眠を得る。そんなことは可能なのだろうか。
「例えば、毎日8時間寝ている人が7時間に減らしてみて、それでも日中に眠気がなく、体調も良いなら、1時間減らしても大丈夫といえる。しかし、もともと睡眠時間がぎりぎりの人がさらに減らしてしまうのはダメ。一時的な睡眠不足は後でたくさん眠れば解消できるが、慢性的に不足すると、もうツケを戻せなくなる」と西野教授。
慢性的な睡眠不足のツケは深刻だ。前述の肥満だけでなく、高血圧、糖尿病、うつ病、免疫力低下など体に様々なダメージを及ぼす。さらに死亡率まで高くなるという報告も。睡眠時間は削らない方が、身の安全です。
A 目覚まし時計に頼らない「自己覚醒法」があります。
アラーム音に驚いて起きるより、自然に気分良く目覚めたい。そんな願望をかなえてくれるのが、自己覚醒法だ。「明日は何時に起きる」と決めてから寝ると、その時刻に自然と目が覚めるという。
「この方法だと朝の目覚めが良く、昼間の眠気も少ないことがわかっている(右グラフ)。体の中では目覚める1時間ほど前から、ストレスに対処するコルチゾールというホルモンが上がるなど、起床に向けた準備が始まっている」と広島大学大学院総合科学研究科の林光緒教授。
アラーム頼りだった人も、1週間くらいでできるようになることも。「ただし、強く念じすぎるとストレスになって睡眠を妨害する。睡眠時間をちゃんと確保した上で、『試しにやってみよう』くらいの気持ちで続けてみては。保険代わりに目覚ましもセットしておくといい」(林教授)。
A 深く眠れていないと肌の水分量が減る。美肌ホルモンにも悪い影響が。
睡眠のリズムが乱れると、肌本来の再生リズムも乱れることが資生堂の研究で明らかになった。深夜5分程度の睡眠中断でも、皮脂量と水分保持量が低下し、1週間後にも乾燥が気になる肌状態になる。また、肌再生に不可欠な成長ホルモンは入眠後にピークに達し、肌の新陳代謝を進める。肌のためにも良質な睡眠は不可欠です。
A 手を強く握り締めるのは緊張しているからです。
「朝起きたときに、手のひらにつめあとが残るほど手を握り締めているのは、昼間のストレスを持ち越したまま緊張して寝ているから」と話すのは、内科医で漢方専門医の南雲久美子・目黒西口クリニック院長。歯の食いしばりも同じで、なかには顎(がく)関節症になる人もいるそう。
A クルミには「メラトニン」が。「トリプトファン」が効くという説もあります。
「これを食べたら必ず眠くなるというものはないが……」と前置きした上で、大阪大学保健センターの杉田義郎教授はこういう。
「クルミには睡眠ホルモンのメラトニンが含まれている。健康によいn3系の油なども多いので、夜、お腹がすいたときにつまむのもいいでしょう」。
また、メラトニンの材料になる「トリプトファン」をとると良いという説も。これはアミノ酸の一つで、納豆や魚、肉、卵などに多く含まれている。
A お酒は少量なら寝つきを良くしますが、量が増えると睡眠の質を悪くします。
お酒を飲むと眠れると思っている人は多いが、実はアルコールも量が増えると快眠を妨げる。
「お酒を飲むと寝つきは良くなるが、体内でアルコールが分解されたころに目が覚める。夜中や早朝に覚醒し、結局、ぐっすり眠れない。また夢も多くなり、悪夢を見ることも。少量なら大丈夫だが、酒量が増えると睡眠の質は確実に低下するので、注意が必要」と杉田教授。
夕食時に飲んだお酒が睡眠に影響する可能性もある。まとまった量を飲むなら、できれば寝る3時間前までには飲み終えておきたい。
この人たちに聞きました
大阪大学保健センター教授。同大学付属病院睡眠医療センター副センター長も務める。「よい睡眠には昼間の過ごし方も重要。しっかり日光を浴びて体を動かすと、夜、メラトニンの分泌量も増えて快眠できます」。
西野精治さん
スタンフォード大学医学部精神科教授。同大学睡眠・生体リズム研究所所長 「遺伝などの要因で6時間未満の睡眠でも健康に暮らしていける人もいますが、非常にまれ。日本には米国以上に睡眠不足の人が多い。もっと睡眠をとってほしい」
(日経ヘルス 大屋奈緒子、ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2010年12月号の記事を基に再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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