女子バレー真鍋監督に学ぶ「女子力」の引き出し方

2013/5/30
2012年のロンドン五輪で大活躍した日本女子選手たち。彼女たちにメダルをもたらした指導者たちは、どのように女子選手の能力を引き出し、限界を乗り越えさせ、世界の大舞台で「女子パワー」を発揮させたのか。結果を出させるためのマネジメントの極意を聞いた。

「女子バレーは男子バレーに比べて、データを駆使した戦術や攻撃面などが遅れていると言われていました。だったら男子のノウハウを女子に教えれば、日本チームは世界の上位にいけるのではないか。チャレンジしてみたいという思いが募り、女子バレーの監督になったんです。でも、女子選手を指導するのがこんなに疲れるとは正直思わなかった…(苦笑)。監督の仕事はコート内よりもコート外の方が多いんです」

全日本女子バレーボール 真鍋政義監督

真鍋政義、49歳。2008年12月に全日本女子バレーボールチーム監督に就任し、2010年の世界選手権で3位に入賞。2012年のロンドン五輪では銅メダルを獲得、ロサンゼルス大会以来、28年ぶりのメダルをもたらした。

真鍋は長い間、日本代表を務めた名セッター。大阪商業大学から新日鉄(現・堺ブレイザーズ)に入り、1988年のソウル五輪に出場。翌年、日本の男子選手で初めてイタリア・セリエAのクラブチームに挑戦。旭化成や松下電器産業(現・パナソニック)でプレーを続けて41歳で引退。新日鉄時代に選手兼任監督を経験し、大阪体育大学大学院でスポーツ科学を学んだことから、指導者への道に迷いはなかった。だが、女子プレミアリーグの久光製薬スプリングス監督に就任早々、真鍋は戸惑う。

女子選手は監督の言葉が“命”

「就任挨拶で選手の前に立って、自分がやりたいバレーボールやビジョンについて10分ほど熱弁をふるったんです。話し終わると何だかおかしい。皆、きょとんとして相槌もない。早口だったかなと思って『分かるか?』と聞いてもうなずいてもくれない。かといって、こちらを値踏みしているわけでもない。ここで初めて気づくわけです。女子は何だか勝手が違うなと。一応、私も日本代表でプレーしてきた選手ですが、そんなことは彼女たちには全く関係がないんですよ(笑)。得体の知れないおっちゃんが何か一方的に話している…という感じで。そして次第に分かってくるんです。信頼がなければ指導者の声なんて届かないと」

真鍋は早速、何人かの女子バレーのコーチに女子選手の指導法について聞いた。アドバイスで最も多かったのがメンタル面。「上から指示するだけでなく、一人ひとりと対話をした方がいい」。言われた通りに心がけた。だが、合宿でレシーブが苦手なA選手に、真鍋自らがスパイクを打って個人指導を行うと、1人の選手が「監督はA選手だけ特別扱いしている」と言い出した。真鍋は男子選手にはなかった「特別扱い」という女性の視点に驚いた。監督の行動や言動で思わぬ妬みが生じる。

「女子選手は監督の言葉が“命”なんです。大卒から実業団に入る男子と違い、女子は高卒が多く、バレーの世界しか知らない子がほとんど。いい意味で素直です。視点を変えれば監督への依存度が高い。だから、相当に平等を保たないと、二十数人いるチームは機能しなくなる」。真鍋は公平性や客観性を保つ策を考えた。

分業で専門コーチに任せる

まず取り組んだのは「コーチの分業制」だった。女子チームの場合、チーム内で大きな目標を設定し、監督が自ら細かい部分まで指導する。コーチはそのサポート役だ。だが、女子選手にとって監督の言葉が“命”だとすれば、監督が一人で右往左往すると、チーム内に混乱が生じる可能性がある。

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