本気の女性登用 「2030」に向け企業は変われるか
日経BPヒット総研所長 麓幸子
「女性管理職、登用に目標、トヨタや三井物産、2020年に3倍」
「中央省庁に女性幹部続々、法務・経産省で初の局長」
「金融大手、均等法『第1世代』を役員に登用」……
新聞各紙には連日女性登用の記事が掲載され、1面トップを飾ることも少なくはない。筆者は日経WOMAN創刊から四半世紀以上にわたり、企業の女性活躍を見てきたが、今ほど女性登用の記事が多いときはないように思う。そのときにぜひ押さえておきたいキーワードが「2030」(にいまるさんまると読む、「202030」とも言う)である。
これは、「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という政府目標である。2020年は東京オリンピック・パラリンピックの開催される歴史的な年ではあるが、この「2030」が決定されたのは、今から11年前の2003年であるから、目標年次がオリンピック開催となったのは単なる偶然である。
なぜ30%なのかというと、「国連ナイロビ将来戦略勧告で提示された30%の目標数値や諸外国の状況を踏まえて」と内閣府のサイトには記載されている。30%というと、ハーバード大学のロザベス・モス・カンター教授による「黄金の3割」理論が有名である。構成人数の30%を少数派が占めると意思決定に影響力を持つようになる理論であるが、関係各所に取材してもその理論と「2030」の関係は把握できなかったのだが、とにかく国は3割というところでピンをさしてその達成を目指して様々な取り組みをしている。
指導的地位というのは企業でいえば管理職を指すが、1989年に2.0%だった女性課長比率は2012年でも7.9%までしか到達していない(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。100人課長がいても女性は8人程度しかいない。
諸外国と比較すると、日本は就業者に占める女性の割合は42.3%と見劣りはしないが、管理的職業従事者の女性の割合は11.1%と先進諸国の中で突出して低い(平成25年版「男女共同参画白書」)。諸外国の掲げる女性登用の目標数値は、たとえ、同じ30%でも管理職の女性比率ではなく、取締役等の女性比率(イタリア、ベルギー、オランダ、マレーシア等・2012年データより)であるなど、一歩も二歩もいや十歩くらい先を行っている。
政府は、そのハードルが高い「2030」目標を達成のために、取り組みにドライブをかける。まず、2013年4月には安倍晋三首相から経済団体に「全上場企業で役員にひとりは女性を登用すること」を要請した。
2011年5月現在では、上場企業3608社において女性役員(執行役員は含まない)は505人で1.2%であるから、多くの企業が社内の女性を昇進させるのではなく、社外の女性の役員就任を急いだのは想像に難くない(ただし、冒頭に触れたように、この春、金融業界で均等法の第1世代の50歳前後の女性たちが相次いで役員に登用されるなど、比較的女性比率の高い業界では内部育成の女性役員も出始めてはいる)。
2014年6月には、「女性登用に向けた目標を設定し、目標達成に向けた自主行動計画の策定」と、「有価証券報告書における女性役員比率の記載」を要請した。
経団連が4月に発表した「女性活躍アクション・プラン」でも、企業の自主行動計画の策定・公表を掲げており、7月14日に主要会員企業47社の自主行動計画を公表した。さらに、会長名で全会員企業約1300社に行動計画をつくるよう呼びかける要請状を送付し、年内に公開する企業を経団連のHPに追加する。
矢継ぎ早の政府の女性活躍推進策のうち、筆者が注目しているのは、6月24日に閣議決定された日本再興戦略にある、「公共調達における女性活用企業の適切な評価」である。
これは公共工事や物品購入、サービス契約等の公共調達や各種補助事業にあたり、ワークライフバランス(WLB)や女性登用などの取り組み状況の報告を求めて、積極的に女性活躍推進に取り組む企業を適切に評価するというものである。
つまり、一般競争入札の実施に当たり、価格や技術の評価に加えて女性が活躍しているかどうかも評価項目として加えるということだ。公共調達において女性活用企業にインセンティブを付与することはこれまでも実施されており、2011年度は14事業2億2400万円、2012年度17事業2億8700万円だったが、2013年度は25事業6億2800万円と、事業数が1.5倍、契約金額が2倍以上になるなど大きく伸びた。今回の施策は、その増加を加速させ、さらに伸ばすということである。
2011年度 | 2012年度 | 2013年度 | |
事業数 | 14 | 17 | 25 |
契約金額 | 約2億2400万円 | 約2億8700万円 | 約6億2800万円 |
これまでは公共調達のうち「男女共同参画やWLBに関連する調査、広報、研究開発事業」においてインセンティブを付与するという一定の枠組みがあった。「テレワーク全国展開プロジェクト」(総務省)、「両立支援に関するベストプラクティス普及事業」(厚労省)、「企業のダイバーシティ経営の促進に関する実態調査」(経産省)等、その事業自体が男女共同参画やWLB関連に限定されたものであり公共工事などは入っていなかったが、その枠組みを外すということである。
「公共調達の原則として経済性と公正性は担保されなければいけないが、その大原則を踏まえつつ、女性の活躍推進に取り組む企業を適切に評価することを盛り込んだ取り組み指針を策定し、受注機会の増大を図る」(内閣官房)
これまでの公共調達で認定した評価項目は、女性の雇用率や女性の管理職(課長相当職以上)・係長相当職の割合、ポジティブアクションの公表等があるが、その実績を踏まえつつガイドラインを速やかに策定し各省庁の取り組みを進めていくということである。
環境への影響が少ない製品を優先的に購入することを「グリーン調達」というが、その言葉にあてはめると、女性登用・女性活用をしている企業を評価する、いわば「ダイバーシティ調達」といえるのかもしれない。その本格稼働が2014年度から始まるのだ。
いっぽう、国交省はすでに女性活用を促すモデル事業を始めており、女性技術者の現場への配置などを入札参加要件とする国発注の公共工事を全国10カ所程度実施する。
女性活躍の評価をポイントにするのではなく、女性技術者を配置していなければ入札もできないというより厳しい条件であるが、その第1弾として東北地方整備局が山形県東根市の橋梁上部工工事に適用、落札価格は2億円となった。公共工事の規模は調査、広報、研究開発事業に比べると桁違いに大きい。この国交省のモデル事業だけでも大きな総額となり、前年と比較すると女性活用企業を優遇する公共調達は大幅に増えると予想される。
経産省のダイバーシティ経営企業100選運営委員長を務め、企業の女性活躍推進に詳しい東京大学社会科学研究所の佐藤博樹教授は、「女性の活躍や登用を公共調達の入札審査の基準に含めることは、女性の活躍の場の拡大に貢献する可能性を持つが、評価基準のあり方によっては、女性の活躍の場の拡大にマイナスの影響を及ぼす可能性が高いと考える。具体的には、管理職の数や比率のみを基準とすると、名称のみ管理職の数を機械的に増やすようなことが生じかねない。そのため、管理職の数や比率だけでなく、女性登用への取り組みを評価することが重要になる」と指摘する。
日経BPヒット総合研究所長・執行役員。日経BP生活情報グループ統括補佐。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。1988年日経ウーマン創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2014年より現職。同年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師(キャリアデザイン論・ジャーナリズム論)。経団連21世紀政策研究所研究委員。経産省「ダイバーシティ経営企業100選」サポーター。所属学会:日本労務学会、日本キャリアデザイン学会他。2児の母。編著書に『なぜ、女性が活躍する組織は強いのか?』(日経BP社)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日経新聞出版社)などがある。
「女性が活躍する組織づくりセミナー」を2014年8月4日に開催する。「女性が活躍する組織が必ず実行している5つのこと」などの講演等がある(http://www.nikkeibpm.co.jp/hit/140804briefing.pdf)。
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