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14歳で妊娠…貧困が貧困を招く米国社会のアイロニー

米国NPの診察日記 緒方さやか

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NIKKEI STYLE

 米国の医療機関などで働きながら、出産・育児を経験した著者が、仕事・出産・子育て・文化の違いなど、さまざまな切り口で、米国社会とそこで働く女性の現状を紹介。読めばリアルな米国が見えてきます。さて、今回取り上げるテーマは、米国における若年層の妊娠について。地域によっては高校卒業前に妊娠、出産する女性も少なくないのだとか。

成人科のナースプラクティショナー(NP)として、原則18歳以上しか診ない私にも、担当している患者さん親子が何組かいる。親子といえどプライバシーは守って診察するのが義務なので、子の前で親の病気の話をしたり、その逆をすることもしないようにしているが、家庭の裏事情を知っているため、ついつい感情が入ってしまうことがある。

シングルマザーがかかえる深い悩み

Aさんは50代前半の女性で、時にぶり返すうつ病に悩まされながらも、懸命に生きている。幼い頃に親から受けた虐待からか、若い頃はドラッグに現実からの逃げ道を見つけ出し、一時期はホームレスだったこともあるという。その後、教会に通い始めてヘロインをなんとか断ち、ネイリストの資格を得て真面目に働き続けてきた。現在、夜間大学に通う計画も立てている。中毒の時に産んだ子どもは養子に出してしまったが、その後生まれた3人の娘を女手一つで育てながら、先も見据える彼女の強さと意気込みを、私は尊敬している。

彼女の一番の願いは「3人の娘たちこそは、まともな教育を受け、きちんとした社会で生きてほしい」というもの。しかし、現在20代後半の一番上の娘は、高校生の時に妊娠して学校を中退し、生活保護を受けている。「ほかの2人にも『教育が一番大切だ』って、口を酸っぱくして言うんだけれど、聞いてるのかどうか…」と彼女はため息をよくついていた。

そんなAさんがある時、とりわけ憔悴しきった顔で来院した。「私のベビーが妊娠しちゃった」。妊娠した末っ子の娘は、なんと14歳。「娘に『その年で子どもを育てられるわけないでしょう』と言うと、怒って家を出ちゃった。多分ボーイフレンドの家にいるんだとは思うけど、もう数日連絡が取れないの…」

私にはかける言葉が見つからなかった。このような状態では、おざなりの慰めの言葉は意味を持たない。時間が許す限り、泣く彼女の話を聞いてあげるしかなかった。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を処方しておしまい、で済む話ではない。

結局、Aさんの末っ子の娘は赤ちゃんを産むことに決めたらしい。「中学を一旦休学し、彼の家に住みながら、子どもを育てていくつもりらしい」と、しばらくしてAさんは暗い顔で私に告げた。

「大学を卒業して働く」というロールモデルが周りにない地域や社会層ではよく聞く話ではあるが、高校を中退したシングルマザーに育てられた子どもたち、特に女の子たちが様々な逆境を乗り越えて「高校を卒業する」というゴールまで到達するのは、アメリカでも非常に困難なことである。周りの多くの友人や家族が母になることを選ぶ中、遠い将来を考えて行動することは、ティーンエイジャーには特に難しい。貧困が貧困を招く――。アメリカ社会のアイロニー(皮肉)そのものだ。

Aさんの3人の娘、残りの1人は…

そんな中、Aさんの真ん中の娘である18歳のBさんが、たまたま風邪のために来院した。診察ついでにボーイフレンドのことを聞いてみると、彼が嫌うため、コンドームはほとんど着けていないという。「妊娠したい?」と聞いてみると、笑いながら「絶対したくなーい」と答える。そこで、「今妊娠したらどうするの?」と聞いてみた(もちろん、彼女に妊娠する可能性があるということを分かってほしかったからだ)。

すると、Bさんからは「うーん、高校を辞めて、赤ちゃんを産むかなあ」との答えが返ってきた。前の週に催された妹の「ベビーシャワー」(赤ちゃんが生まれる前に、妊婦に赤ちゃんグッズを贈るパーティーのこと)が楽しかったらしい。にこにこしながら答える彼女に、子どもを育てることはどんなにお金がかかることなのか、また楽しいことばかりでないことを諭しても、説得力はないような気がする。

警察官になるのが夢だと言う彼女に、「今妊娠したら、夢をかなえるのは難しいよ」とは話したが、あまり強引に避妊を勧めるのは、すでに妊婦である14歳の妹を責めているようで、ためらってしまう。結局、できる限りのカウンセリングをし、彼女はピルの処方を選択した。ついでに性病検査をして、2カ月後にまた来院することを勧めた。

医療者として、客観的な視点を保たなければいけないと自分を制しながらも、 Bさんの避妊教育に特に力が入ってしまうのは、 母親であるAさんの苦悩する顔が頭に浮かぶからだ。もちろん、そんなことは自分の心の中にそっと隠しておくが…。

その後、幸いというべきか、Bさんのクラミジア検査で陽性の結果が出た。ボーイフレンドと一緒に治療するために、2人で数日後に来院するよう指示したので、その時にピルを飲んでいるかどうか確認できるだろう。

貧困が貧困を招く鎖は、一医療者で断ち切れるような生易しいものではない。それでも、挑戦せずにはいられないのである。

緒方さやか(おがた・さやか)
婦人科・成人科ナースプラクティショナー(NP)。2006年米イェール看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。「チーム医療維新」管理人。プライマリケアを担うナースプラクティショナーとして、現在、マンハッタンの外来クリニックで診療にあたる。米ニューヨーク在住。

[日経メディカルオンライン 2013年6月19日付記事を基に再構成]

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