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梅雨が変えた戦国の歴史 「信長戦記」に新たな視点

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NIKKEI STYLE

明けそうでなかなか明けない今年の梅雨。東アジア独特の長雨の季節に、日本の歴史は大化の改新、鎌倉幕府滅亡、応仁の乱などたびたび大きく動いてきた。とりわけ縁が深かったのが織田信長だ。戦国時代の流れを決定付けた桶狭間の戦い(1560年)、長篠の合戦(75年)、本能寺の変(82年)などは現在の暦で6、7月に起きている。信長の合戦についても新たな視点からの研究が進んでいる。

桶狭間は正面攻撃の勝利か

永禄3年5月19日(現在の6月12日)に尾張(愛知県)で行われた桶狭間の合戦は、東海3国を領有していた今川義元の大軍を劣勢だった織田軍が破り、信長が頭角を現す第一歩となった。これまでの解釈は今川本陣の休息中に織田軍が北方の山中を迂回奇襲し、乱戦の中に義元を敗死させたというものだ。

しかし国学院大の藤本正行兼任講師は同時代の史料「信長記(信長公記)」を読み込み、信長軍が今川本陣を正面から攻撃したと従来の説を改めた。

「信長記」は信長近臣の太田牛一が書き記したもので信用性が高いとされる。その中に奇襲攻撃の記述はないという。さらに義元の本陣があったという桶狭間山は標高約60メートルの丘陵で、見晴らしはよく迂回攻撃は考えにくい。合戦の直前に豪雨が織田軍の背中、今川軍の顔に吹き付けた。藤本氏は著書「桶狭間の戦い」(洋泉社)で「雨があがったところで信長が攻撃。撃破された今川前軍の混乱が後方の義元の本陣に波及、全軍総崩れになった」と説く。

金子拓・東大史料編纂所助教は「現代でいうゲリラ豪雨みたいなものだったかもしれない」と予想する。天候の味方だけではなく今川軍の油断もあった。主力決戦を予想していなかったため兵力をかなり分散させていたようだ。

戦闘の展開には新たな見方も

信長は次男、三男らを中心にした約2千の親衛隊を率い、遠征途上で疲労もあった約5千の今川軍に集中攻撃したとみられている。迂回奇襲説は明治初期に陸軍が編さんした「日本戦史」に記述されている。藤本氏は江戸初期に書かれた「甫庵(ほあん)信長記」をそのまま陸軍が採用、結果として迂回奇襲説が流布したと分析した。作者の小瀬甫庵は桶狭間の戦い以後に生まれ、牛一の信長記を参考したとされる。

それでも少数の織田軍がなぜ今川義元を討ち取れたのか、信長記だけでは埋めきれないナゾの部分もありそうだ。今年1月出版の「信長と家康」(学研パブリッシング)で戦国史研究の谷口克広氏は「今川本隊は大部分は非戦闘員で専業の武士は1千もいなかったのではないか」と説く。「ヤリ持ちや馬のくつわ取りなど農民から徴収された兵士も多かっただろう」と谷口氏はいう。

金子助教も「主力決戦の場面では具体的な展開などまだ研究課題は多い」としている。重要な史料でありながら信長記は牛一の自筆本が2種類、さらに多くの写本が現存する。7月9日出版の「『信長記』と信長・秀吉の時代」(勉誠出版)の中で歴史研究者の桐野作人氏は天理大学所蔵のものや個人蔵など複数の信長記を比較し、これまで注目されなかった鷲津砦(とりで)近くで戦われた可能性を示した。桶狭間よりかなり西方にあたる。岐阜市信長資料集編集委員会委員の和田裕弘氏も各種の信長記本を比べて推敲(すいこう)の時期の違い、記述の矛盾などを指摘。信長記以外の著作も視野に入れた研究が必要と唱える。日本史上最も有名な戦いの一つである桶狭間の戦いだが、戦いの全貌が明らかになるのにはまだ時間がかかりそうだ。

3千挺3段撃ちはフィクションか

15年後の長篠の合戦(天正3年)は織田・徳川連合軍約3万8千と武田勝頼軍約1万5千が激突。連合軍が勝利し、信長の天下統一が確実視されるようになった戦いだ。しかし「武田の騎馬隊対織田・徳川鉄砲隊という単純な図式ではない」と藤本氏は強調する。戦場で3千挺(ちょう)の鉄砲が1千ずつ3段構えの連続射撃で武田軍を破ったというのが従来の解釈。これだと鉄砲足軽の隊列が2メートル間隔としても約2キロの長大な列となってしまう。「現実に1人の指揮で統一した一斉射撃は不可能」(藤本氏)との考えは研究者間で一致している。

ただ武田軍の名将といわれた山県昌景を狙撃で戦死させるなど鉄砲隊が活躍したのは間違いない。地元にある「新城市設楽原歴史資料館」の小林芳春・研究専門委員らは、毎年7月に火縄銃を使った連続射撃の実験を続けている。ほぼ同一メンバーでの3人1組の動きを、発射終了までカメラ撮影しデータ分析。これまでの結果は射撃間隔が15秒程度で実戦でも十分対応できるようだ。1人の射撃手に助手が2人付いて交代で準備した銃を渡していく分業法での連続射撃も始めている。長篠の戦いでは織田軍に前田利家ら5人の鉄砲奉行が派遣されていた。50~100人の鉄砲チームが分散し、戦場の各方面で連続射撃が威力を発揮したのかもしれない。この合戦で山県や馬場信房ら司令官・将校クラスが数十人も戦死したことで、7年後の滅亡まで武田軍は質的に立ち直れなかった。一方、連合軍側は別動隊の1人だけだったという。

梅雨明けを待った戦略家信長?

むしろ戦略家としての信長に再評価が集まっている。史料などで確認はできないものの設楽原歴史資料館の湯浅大司主任研究員は「わざと決戦日を遅らせて梅雨明けを待ったのではないか」と推測する。

徳川家康の救援依頼を受けて本拠地の岐阜を出発したのが5月13日。家康の待つ岡崎には14日に到着したがその後進軍ペースを落とした。主戦場に本陣を置いたのは18日、戦いは21日早朝からだ。現在の7月9日にあたり「例年の梅雨明けに近い」(湯浅氏)。地元の年配の人々は「今日でも雲の流れや風の方向で翌日の天気を予想している」(湯浅氏)。そうした現地情報を参考にして決戦のタイミングを決めたのかもしれない。雨の日にあまり鉄砲は使えなくなる。桐野氏も「鉄砲が普及してから従来に増して天候が重要な要素になっていた」という。

決戦場でプレハブ工法?

信長は兵1人に柵木1本と縄1束を携行するよう命じ、現地では短期間で大規模な「馬防柵」を組ませたという。桐野氏は「現代のプレハブ工法みたいなもの」と例える。さらに現地調査では空堀や土塁など大規模な「陣城普請」を施していたことが分かってきた。防御用のインフラ整備を行ったわけだ。可能な限りの鉄砲を戦場に集めて集中的に運用したこととあわせて桐野氏は昨年出版した「織田信長」(新人物往来社)で「一種の軍事革命」と称賛している。

実際、現地には自衛隊関係者の見学が今も続いているという。設楽原歴史資料館は2001年に陸上自衛隊豊川駐屯地との共同研究を試みた。戦場の配置図を見た同駐屯地の幹部は防御が強固な信長本陣と比べ、家康陣は危険でいたくない場所と感想を述べたそうだ。家康が救援を受けた立場であるにせよ、信長・家康の力関係をうかがわせる。さらに北方に布陣しほとんど活躍が伝わらなかった羽柴(豊臣)秀吉が実は重要なキーマンだった。武田軍が迂回して信長を攻めないよう急所のポイントを占めていると指摘したという。

梅雨を利用した秀吉

その秀吉が天候の利用や戦場でのインフラ整備などのノウハウを受け継いだのかもしれない。長篠合戦の7年後の高松城(岡山県)で秀吉は「水攻め」を実践した。長さ約4キロメートルもの築堤を行って高松城を人工湖の中に閉じ込め、毛利本軍をくぎ付けにした。この戦場に信長の救援を依頼したことが、6月2日の本能寺の変の伏線につながった。現代では7月1日にあたる。変の真相は明智光秀遺恨説から朝廷、公家陰謀説まで未だ結論がみえない。

光秀と秀吉が戦った同月13日の山崎の戦いは、当時の公家の日記では雨だったという。鉄砲が使えないのは「人数的に劣勢だった明智軍に不利だっただろう」(桐野氏)。秀吉は天正11年の柴田勝家との織田政権後継争いでも北ノ庄(福井市)の柴田軍が雪などで出動しにくい冬季を狙って近畿・中部で作戦を開始した。信長・秀吉の戦歴は四季をうまく戦力に組みこむ者が天下統一の資格を得たことを示している。

梅雨はジメジメして活動しにくく停滞したムードに覆われがちだ。しかしこの季節は近世に入っても日中戦争の勃発などの事件が起きている。内外とも大きなニュースが続くなか、今年も歴史の転換期を迎えているのだろうか。

(電子整理部 松本治人)

<梅雨将軍信長>
 織田信長と梅雨との関係を描いた直木賞作家・新田次郎氏の歴史小説「梅雨将軍信長」(新潮社)には現在の気象予報士に当たる平手左京亮というキャラクターが登場する。気象庁勤務だった作者のキャリアを生かしつつ梅雨の天候を利用する信長の合戦模様を描いた異色作。ただ「現実には織田家に天気を予想する役職はなかった」(金子助教)。「梅雨」の言葉自体は江戸期以降に使われるようになったという。

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