足もとの草花も生き生きと 「春」をiPhoneで撮る
■「アリの目」で足もとの花も生き生きと
春が近づくと足もとの草花がにぎやかになってくる。そんな春の気配をiPhoneで撮影して友人に送るとき、意識するといいことがある。同じものを撮った写真でも、アングルが違うと相手に伝わるイメージはがらりと変わる。
例えば花。立ったまま上から見下ろすように撮るのではなく、地面スレスレの低い位置に構えて撮ってみると、空に向かって伸びていく生き生きとした様子を伝えることができる。いわば「アリの目線」だ。
取材現場でも、カメラを地面に置いて撮影するケースがよくある。勢いのある写真を撮るには欠かせない手法だ。極端な場合、地面を掘ってカメラの位置をさらに下げ、レンズの位置を限りなく低くすることもある。
しかし、iPhoneでの撮影ならそんな苦労をしなくてもOK。カメラのレンズ部分が小さくて本体の端にあるからだ。一眼レフカメラと違って、地面にはうようにしながらファインダー越しに構図を確認する必要もない。
写真のように左手で構えて画面を見ながらシャッターを切れば、iPhoneに泥や砂が付くこともない。さらに、このまま花の近くにテントウムシやチョウが飛んで来てくれれば……言うことなしの構図になる。
■「鳥の目」で幾何学的に撮る
3月ともなると、就職を控えた学生たちの卒業旅行シーズンを迎える。旅先で素敵な風景に出合うと、写真に収めたくなるはず。そんなときは、目の前に広がる景色を少し違った視点で撮ってみてはどうだろう。「鳥の目」、つまり高いところから見下ろす俯瞰(ふかん)撮影だ。
俯瞰撮影にはいくつか利点がある。一つは、被写体の形や模様の面白さを幾何学的に表現できること。また屋外で撮影しても空が入らないため、写真の出来が天候に左右されにくい。さらに、ミニチュア風写真の素材にすることもできる。
今回は東京都港区にある商業施設「カレッタ汐留」の展望スペースを訪れた。地上200メートルの高さから、浜離宮や築地市場、レインボーブリッジなどを眺めることができる。誰でも無料で上がれる上、朝7時から深夜0時まで開いているため、夜景も撮影可能だ。
報道でも、事件・事故の発生現場を撮影するのに、許可を得て近隣のビルなどにのぼり、高所から撮影することがしばしばある。もっとも、火災現場の場合は風向きを考え煙を浴びない位置から撮影しなければならないので、高ければいいというものでもないのだが。
カメラマンの駆け出しの頃はつい興奮して正面から現場に近づこうとしがちだが、場数を踏むうちに、俯瞰で全体の様子を把握できる写真も読者にとって必要だとわかってくる。ちょっと身を引いて高い位置から見る「鳥の目」は、カメラマンに必須の視点といえるだろう。
春のお出かけでは、カフェなどで彩り豊かな料理を撮りたくなることも増えそうだ。
食べ物への光のあて方については、本シリーズの「料理写真編」で半逆光が基本だと紹介したが、構図について改めておさらいしてみよう。
■思い切って切り捨てる 「ごはん写真」の極意
ついつい皿全体を入れて撮ってしまいがちだが、それでは食べ物の魅力が伝わりにくい。メーンの料理の背景に小道具を配置し、思い切ってうつわを切り捨てる構図をとってみよう。
小道具として使えるのは、他の料理、飲み物のグラス、箸やスプーン、テーブルの飾り――など様々。背景をどう構成するかは、主役を目立たせるのにとても重要だが、案外難しい。
背景の食べ物は主張しすぎず、かつ適度に隙間を埋めて配置するのが理想的。小道具を1つか2つ選んで並べ、画面を見ながら微調整していこう。場合によっては、iPhoneを思い切って傾けて撮影するやり方も有効だ。あとは写真で料理の何を伝えたいかや、特徴(形、色、表面など)がうまく表現できるよう意識して試行錯誤を重ねてみてほしい。数をこなしていくうちに、意図したとおりの構図を決めるのも慣れてくるはずだ。
イラク戦争の取材で有名な報道写真家、高橋邦典氏は対談番組で、写真について「被写体の感情と光、構図の3本柱がそろったときにパーフェクトな写真となる」と説明する。その中でも「構図だけはカメラマンが100%コントロールできる。そういう意味で構図は大切だし、カメラマンの実力があらわれる」という。
カメラマンが写真に手を加えることがない報道の現場で、いかに工夫して読者に伝えるか、他と差別化を図るか、すべてはカメラマンの腕にかかっている。基本はとにかくものごとをよく観察することだ。
さあ、みなさんもiPhoneで日一日と近づく「春」の撮影を楽しもう。
(写真部 小林健・寺沢将幸)
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