職人が作るベビー用品 伝統の技を未来につなぐ女子力起業(10)編集委員 石鍋仁美

2014/2/24

「全国の職人さんが持つ技で、質の高いベビー用品を作ってもらおう」。アイデアを形にしたら、有名百貨店が相次ぎ取り扱うことに――。「日本の職人さんの技術は世界の宝」だと考える矢島里佳さん(25)は慶大卒業と同時に、彼らの腕を生かした商品を企画・販売する会社を設立。ベビー用品を入り口に、「本物」が分かる大人を増やし、職人の技を未来につなぎたい。そんな思いをビジネスで実現しようと挑む。

和える 代表取締役 矢島里佳さん 全国各地の職人とベビー用品を開発、百貨店などで販売している

伝統と現代、機能とデザインを「和える」

社名は、和える。「あえる」とすんなり読める人は、もはや多くない。広辞苑を引くと「野菜・魚介類などに味噌(みそ)・胡麻(ごま)・酢・辛子などをまぜ合わせて調理する」とある。別々に存在する伝統と現代、機能とデザインを「和える」ことで、新しい価値を生みだしたい。そんな願いを示すとともに、「一人でも多くの日本人に、この言葉を読めるようになってほしい」という思いも込めての命名だ。

扱う商品は現在10種類ほど。自社のホームページでも販売している。一部の商品には「品切れ中」の表示がある。職人が一つ一つ手づくりするため、生産が人気に追いつかないためだ。

この人気商品は「こぼしにくい器」。内側に「返し」と呼ぶでっぱりをわずかに付けることで、食べ物をスプーンにのせやすくした。赤ちゃんや子供には、スプーンを使うことは難しい。こぼす。手を使う。親子ともストレスがたまる。そうした悩みを少しでも解決するデザインだ。

職人が5本のカンナを使い分けて製作

石川県に伝わる山中漆器という器づくりの手法を用いたものは、形状が複雑なため、職人が5本のカンナを使い分けて作っている。通常の器なら、木から削り出すのに2本か3本のカンナを使い分ければ済むそうだ。職人の技と時間を投入した器だ。

石川県で作る山中漆器の「こぼしにくい器」

山中漆器だけでなく、同じデザインの「こぼしにくい器」を徳島県の大谷焼、愛媛県の砥部焼でも作り、販売している。漆器、陶器、磁器と、それぞれの魅力や特色があるからだ。陶器は割れやすく、子供用品には向かないと普通は考える。しかし「物を乱暴に扱えば割れることを学ぶのも大切。危ないからと遠ざけるのではなく、物を大切に使うことを、食事を通して学んでほしい」と矢島さん。

他にも、「津軽塗のこぼしにくいコップ」(青森県)、「本藍染(あいぞめ)の産着」(徳島県)、「草木染のブランケット」(京都)、「和紙のボール」(愛媛県)など、各地の伝統技術を生かした商品が並ぶ。

「和紙のボール」とは、丸く編んだ籐(とう)の木の中に鈴を入れた後、職人が手作業で繰り返し和紙の原料をからませ、漉(す)いて作る。かなり丈夫だが、籐の木の編み目の間隔が開いているため、指で穴を開けることもできなくはない。それでもいいと言う。小さいころ、障子に指で穴を開け、怒られつつも楽しんだ感覚を、今の子供も味わえるからだ。

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