涙形にハート形… 丸くないトマト続々、その味は
年末の買い物客でにぎわう京王百貨店新宿店の地下食品売り場。青果店「築地定松」の店頭に新しいトマトがお目見えした。高知県からやってきたミニトマトの新品種「スウィーティア」だ。
「乙女の涙」 まるでゼリービーンズのよう
最大の特徴はその形状。別名「乙女の涙」。ミニトマトの多くが、ほぼ球体に近い形をしたものであるのに対し、スウィーティアは、細長く真ん中がへこんでおり、涙のような形をしている。
形だけではない。フルーツのような甘さや食感も際立つ。(1)果実中にゼリー分が少なく、皮も肉厚なためプリッとした食感を持つ(2)糖度が9~12度と高く甘い(通常は5.8度くらい)(3)リコピンも多く含む(通常の約1.5倍、100グラム中15ミリグラム)。
農薬や自動車向け素材を手掛ける井上石灰工業(高知県南国市)と育種家が共同で開発した。これまで高知県内の地元スーパーを中心に販売していた。京王百貨店新宿店で「首都圏デビュー」を果たした。1袋100グラム入り399円で販売している。
「普通のミニトマトよりも甘く、まるで(ソラマメ形をした砂糖菓子)ゼリービーンズのよう」。定松の百貨店小売部門営業推進店長、日野次郎さんはスウィーティアの味をこう評価する。同店では過去、リンゴの風味がするバナナの新品種「バナップル」を販売し、口コミによって大ヒットさせた経験を持つ。ユニークな形とともにおいしさも兼ね備えたスウィーティアは第2のバナップルになる可能性は高いと考えている。
ハート形やピーマン形、楕円形も
スウィーティアを扱う業務用青果卸業の持丸食品(東京・大田)の持丸勝志社長も「果実内にゼリー分が少なく肉厚であるため、かんだときに種などが飛び散らず食べやすい。ミニトマトが持つ欠点もカバーしている」と説明する。
記者も実際に食べてみた。事前にトマトと教えられなければ「トウガラシ」と勘違いしてしまうようなユニークな外観だ。苦味や酸味などを予想しながらゆっくりと口に運んだ瞬間、甘みが口の中に広がる意外感。乱暴にかんでも種も飛び散らないので、スナック感覚で楽しむこともできそう。
スウィーティアにとどまらない。ユニークな形をしたトマトが最近、相次いで登場している。その代表のひとつが、ハートの形をしたミニトマトの「トマトベリー」。トキタ種苗(さいたま市)が2006年に開発した新種で全国で100軒を超す農家が栽培、欧州や北米などにも輸出されている。食べてみると、普通のミニトマトに比べ甘く、くせのなく、後味がすっきり。トマト特有のくさみがないのも特徴だ。
ミニトマトのトップブランドの一つ、ルビーのような赤い色の「アメーラ・ルビンズ」は弾むような歯ごたえで、かめば適度な酸味とやさしい甘みが広がる。金色の「アメーラ・ルビンズゴールド」も同様だ。形だけでなく、従来と違った色の品種も増えている。
南アメリカの原産種は1センチの丸いミニトマト
トマトは南米のペルーやエクアドルなどのアンデス高原が原産地。原生種の一つに、現在のミニトマトに近い1センチほどのたくさんのちいさな実をつけたチェリータイプトマトなどがある。
この野生種トマトが、大航海時代に欧州に渡り、アジアや中国を経て、初めて日本に入ってきたのが17世紀の江戸時代だ。当初は観賞用だったが、その後、香辛料として使われるようになり、昭和に入って品種改良を重ね、現在のように生で食べられるようになった。
日本の家庭ではかつては大玉トマトが一般的だったが、最近では大玉、中玉、ミニトマトなど大小様々な種類が並ぶ。カゴメによると、同社の「トマト鍋」がヒットした09年の少し前ぐらいから、家庭でのトマトの食べ方が変化。「様々な料理やスイーツにも使われるようになり、ユニークな形の品種も増えてきた」(広報グループ)。
トマトは単価が高く「もうかる野菜」
品種の増加ぶりは、国への登録数を見てもよく分かる。野菜の品種登録を担当する農林水産省によると、現在品種登録されているトマトは193種、出願が公表されているのは36種。出願者にはカゴメ、タキイ種苗など大手企業や自治体の名前が並ぶ。「ハイブリッド品種を開発している大手企業や、外国の品種を登録する日本の方など、毎年コンスタントに登録の出願がある品種の一つ」(同省)という。
トマトの品種開発競争が活発になっている背景には、生産者にとって"もうかる野菜"であることも大きい。東京都中央卸売市場によると、トマトの12年の取扱金額は326億7800万円で野菜では3年連続トップ。一方、同年の取扱数量では6位にすぎず、それだけ単価の高い野菜といえる。
1世帯の購入額は年6000円超、2位キュウリの倍
トマトのもともとの旬の時期は6~8月の夏。ハウス栽培の普及に伴い、通年野菜となっている。カゴメによると、日本人の1世帯あたりのトマトの購入額は年間6000円超。2位キュウリの同3000円の2倍と、野菜の中でも断トツの人気だ。
ただ、1人当たりの年間摂取量は世界平均が20キロであるのに対し、「日本は8.3キロ。世界には年間100キロを超している国もある。まだまだ消費量は増える可能性は高い」(カゴメ広報グループ)
12年2月に京大の研究チームが「トマトにメタボリック症候群対策に期待できる含有成分がある」と報道された後、にわかにトマトブームが起きた。ピークは越えたものの、トマト人気はまだ続いている。品種開発競争が激化するなか、新たな品種が次々と現れる可能性は高く、当面、目が離せそうにない。
(電子整理部 竹内太郎)
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