AKB48がCDセールス、配信ともNo.1 やや話題先行だったK-POP
日経エンタテインメント!
編集部(以下、編) 2011年に最もCDを売ったのはAKB48でした。
つのはず シングルとアルバム合わせて70億円強というセールスは、前年の約2倍。さらに派生ユニットや姉妹グループを含めると、AKB48関連はCDだけで100億円を突破します。これは、ジャニーズの全グループ合計とほぼ互角。一大勢力が一気に出来上がりました。
編 シングルチャートを見ると1位が『Everyday、カチューシャ』で、AKB48はトップ10に4枚ランクイン(表1)。
つのはず アーティストの売上額は単価の高いアルバムが過半数ということが多いのですが、AKB48はシングルが40億円以上と、およそ3分の2を占めるのが特徴です。
通販率が高まるAKB48
編 ただ、ニュースでは初日でミリオン突破などさんざん報じられたものの、ここでは1位の『カチューシャ』で約82万枚どまりです。
つのはず AKB48 の場合、「劇場盤」と呼ばれる個別握手券付きCDは、ネット通販の「キャラアニ.com」でしか扱っていません。こうした特殊ルートでの売り上げは、サウンドスキャンのデータには含まれないんです。エイベックスが運営する「ミュウモ」のような自社流通も同様ですね。ニュースでは、こうした販売ルートも反映しているオリコンのデータが使われます。
編 差はどれくらいありますか?
つのはず オリコンとサウンドスキャンの差は、2月発売の『桜の木になろう』で55万枚。以降『Everyday、カチューシャ』77万、『フライングゲット』85万、そして『風は吹いている』90万枚とリリースごとにどんどん拡大していますね。
編 限定特典をつけて、それを1カ所で大量に売るというのは、とても効率がいいですよね。音楽界は、こういうコアファン向けのビジネスがますます盛んになりそう。
つのはず 全国の店頭で毎回初回盤が争奪戦となる嵐のように、広く売れたほうが本当の意味での国民的スターに育つ気もします。とはいえ、AKB48は店頭でも配信売上でもトップだし、カラオケでは『ヘビーローテーション』が48週連続1位の記録を作り、9月以降は『フライングゲット』も急上昇。ライトユーザーもしっかりつかみ、全方位でヒットを飛ばしました。MVP級の活躍だったのは間違いありません。
編 この勢いはまだ続きそう?
つのはず 派生ユニットのなかには、一部売り上げが下がり始めたものもあります。一方で、乃木坂46など関連グループはまだ増えるので、徐々にAKB48内での明暗がはっきりしそうです。
編 AKB48と並び、音楽界の話題をさらったのがK-POP。特に、少女時代とKARAの2組は、アーティスト別のCDセールスでも、配信売上でもトップ10入り。
つのはず 同じガールズグループでも、売れ方はちょっと違います。少女時代は日本デビューアルバムが65万枚近く売れ、年間3位となるなど、アーティスト色が強い。6990円のバッグ付き豪華初回盤の予約がネット通販で殺到するなど、熱心なファンをがっちりつかんでいます。
編 一方、KARAの2010年発売のアルバムは累計約48万枚と、少女時代の4分の3くらいですね。
つのはず その代わり、『ジェットコースターラブ』と『GO GO サマー!』がともに25万ダウンロードなど、配信が強い。『GO GO~』が約22万枚で年間14位など、シングルでも少女時代を上回ります。バラエティ番組から吉本新喜劇の舞台まで出演する親しみやすさがあるだけに、KARAはライトな層に幅広く買われているようです。
編 シングルチャートではほかにチャン・グンソクの日本デビュー盤が15位、2人になった東方神起の再始動作が20位にランクイン。4組がヒットしているとはいえ、トップ10内はゼロなんですね。「K-POPブーム」という割に、セールスは控えめな気も…。
つのはず その4組に続くのは誰か、最も売れたシングルのセールスで見ると、10万枚を超えたのはSHINeeのみ。4万~7万枚台で9組が続く状況です。これをJ-POPのアーティストと比較すると、aikoやUVERworld、水樹奈々のほうが売れているという水準ですね。
編 各社が競うようにK-POPグループをデビューさせたことで、報道ばかり先行し過ぎた感は否めないかもしれませんね。
つのはず ただ、CDショップでは、この1年でK-POPコーナーが明らかに拡大しましたよね。その結果、サウンドスキャンのシングル&アルバムTOP500に入ったCDだけでも売り上げは90億円を超え、前年の3倍以上になっています。今後はグループに続いて、女性ソロやバンドなどのデビューが控えているレコード会社もありますから、まだまだマーケットが拡大する可能性もありそうです。
『マルモリ』がロングセラー
編 アイドル、K-POP勢が並ぶシングルチャートで毛色が違うのが、45万枚超で7位の『マル・マル・モリ・モリ!』ですかね。
つのはず 配信でも50万ダウンロードを超える大ヒット。CDと配信の両方で10週以上トップ10入りしたのはこの曲だけなので、2011年を代表する曲といえるのでは。振り付けを覚えるために、DVD付きCDがロングセラーになりましたよね。
編 幼稚園などで子どもたちが踊る映像をよく見ましたが、飲み会で踊ったサラリーマンも多かったのでは(笑)。
つのはず 地震や台風など大変な災害が多かった年だけに、日々に感謝する歌詞も一層響いたのかもしれませんね。このヒットのおかげで、主役の芦田愛菜ちゃんは、ソロデビュー作も週間チャートでトップ10入り。鈴木福くんも、出演したドラマ『妖怪人間ベム』のオープニングテーマを歌っています。2012年以降、彼らを軸にした子役ブームはまだまだ続きそう。
女性ソロNo.1はガガ
編 ところで着うたフルは、『マルモリ』含む5曲の50万ダウンロードが最高なんですね(表3)。
つのはず 2007年以降、着うたフルでのミリオンヒットが毎年ありましたが、2011年はついにゼロ。1~6月の累計ですが、レコード協会の調べでもモバイルの有料音楽配信は前年比約83%にとどまっています。
編 スマートフォンへの切り替えが一気に進んだのが、一因といわれていますが…。
つのはず それと、言いにくいところですが、今は音楽を無料で楽しむ方法はいくらでもありますからね…。人気の楽曲が見えにくくなってしまった結果、以前のSuperflyや西野カナのように、着うたをきっかけに社会現象とまでいえるような大ヒットを作るのは難しくなっています。それでも、"お祭り男"としてキャラクターが浸透したナオト・インティライミは、『今のキミを忘れない』の着うたヒット後に2ndアルバムが約10万枚と伸びました。ラブソングの歌詞が評判のソナーポケットは、50万ダウンロードを記録した『好きだよ。~100回の後悔~』のほか、4曲が週間の配信チャートで1位になるなどブレイク目前です。規模は小さくなったとはいえ、まだヒットの足がかりとして機能はしていると思います。
編 そのほか、活躍が気になったアーティストは?
つのはず レディー・ガガですね。ここ数年、洋楽で大ヒットしたのは、マイケル・ジャクソンやビートルズといった、懐メロ系ばかりでしたが、彼女はアルバムが50万枚を超え、6位に入る大ヒット。さらに配信でも人気となり、洋楽では珍しくアーティスト別売り上げでも7位に入っています。
編 震災の後、すぐにチャリティーに乗り出したのが印象的でした。
つのはず 6月の来日時にはたまねぎ衣装で『徹子の部屋』に出演。インターネットでは、コミカルにもシリアスにも語られるスターですよね。それだけのカリスマ性があるから、彼女が動くだけでモノも動く。来日時には2009年のデビュー盤以降、アルバム4作すべてが100位以内にランクインしていますから。
編 アルバム5位の安室奈美恵は様々なアーティストとのコラボレーションベストなので、実質的に女性ソロで一番売れたアルバムはレディー・ガガなんですね。集計外の輸入盤もありますし。
つのはず 今、日本では初回盤や特典の種類を人数分だけ増やしてブレイクするグループが増えています。でも、確固たる意志があればソロの若手でも大ヒットできるはず。レディー・ガガの大ヒットはそれを教えてくれるような気がします
縮小が続くアルバム市場
編 アルバムチャートの1位は嵐で72.7万枚。こちらも配信同様、ミリオンヒットがなくなりました。
つのはず 過去3年間の年間チャートで、30位の売り上げを見てみると、シングルは、9.9万→13.2万→16.6万枚と増加しているのに対し、アルバムは18.3万→17.8万→16.1万枚と減少が止まりません。
編 レコード協会発表の数字でも、2011年は1~10月の金額ベースで、シングルは前年比110%と伸びているのに対し、アルバムは88%と減少していますね。
つのはず 2011年は、前年のいきものがかりやFUNKY MONKEY BABYSのようなベスト盤の大ヒットが少なかった。先ほどの着うたの話にも通じますが、ヒット曲が見えにくいため、活動を総括するベストが組みにくくなった気がしますね。それと、購買力のあるコアファンを意識してアイドルなどに注力しすぎて、レコード会社がアルバムアーティストをあまり育てていないのではと思います。
編 では、2012年はどんなタイプのアーティストに期待しますか?
つのはず ONE OK ROCKやサカナクションなどの中堅が、10万枚前後まで数字を伸ばしてきたし、この勢いに乗ってカリスマ性の高いバンドがどんどん出てくればいいですね。あとは、グループに負けない女性ソロのボーカリスト。アイドルでも、シンガーソングライターでも、K-POPでもいいんですが、思わず見入ってしまうほどの歌力やダンスのキレが抜群など、大画面の映像でも飽きさせない魅力を持つソロ歌手が出てくれば、もっと面白くなるはずです。
音楽アナリスト。1968年京都市生まれ。音楽関係の原稿執筆や市場分析、コンピや復刻CDの企画、CD店支援などを担当
(日経エンタテインメント!編集部)
[日経エンタテインメント!2012年1月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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