国内で開催された主要な博覧会のシンボル施設を次々と設計した、日本を代表する建築家の一人である故・菊竹清訓(きくたけきよのり)氏。菊竹建築のワクワク感を、写真や編集者自らが描いたイラストを添えてリポートするこの連載では、これまで江戸東京博物館と久留米市民会館を紹介してきた。最終回では、菊竹氏が1990年代末に手がけた島根県立美術館を紹介する。(日経アーキテクチュア編集部)
博物館、図書館、武道館など、松江市で島根県の施設を数多く設計してきた菊竹清訓が、1990年代末に手がけた美術館である。敷地は宍道湖(しんじこ)の湖畔。それまでに手がけた施設が集中する松江城近辺のエリアから、湖を挟んで反対側(南側)にある。
美術館に着いたのは午後の4時頃。夕方の時刻を選んだのは日没の景色を味わってみたかったからだ。宍道湖に沈む夕日は美しい。
特にこの美術館から見る夕日は、NPO 法人日本列島夕陽と朝日の郷づくり協会による「日本の夕陽百選」にも選ばれているほどだ。ロビーには日没時刻が示されていて、閉館時刻も日没から30分後と定められている。
ところが当日は、午後からあいにく小雨交じりの天候。太陽は雲の向こうに隠れたまま。少し気を落としながら、美術館の取材を始めたのだった。
メーンエントランスは来館者を招き入れるように凹型にカーブした壁面の途中にある。入るとそこはガラス張りのロビー。野外彫刻を展示した庭を挟んで宍道湖が間近に見える。そこから左奥に展示室、レクチャー室、ライブラリーなど、右手には市民活動のためのギャラリーとレストランがある。展示室は段状に上がっていく立体的な構成で、1階に常設展示、2階に企画展示がある。
平面図を見ると、美術館の主要機能を収めた本体部からギャラリーが突き出した、斧のような格好だ。そこにチタンで葺かれた大きな屋根が架かっている。異なる機能の施設をひとつの屋根で覆ってしまうやり方は、萩市民館(1968年)でも見られた手法。ただし屋根の形は全く異なっている。