乗り換えの隠れた秩序 必ず通る「2つのリング」
渋谷駅の利用客は1日約300万人と、新宿駅に次いで全国2位。これほどの乗客が大きな混乱もなく9路線を利用しているのは考えてみれば不思議だ。ラッシュ時の混雑は確かにひどいが、大きな事故につながらないのはなぜか。そんな疑問に答えてくれたのが昭和女子大学の田村圭介准教授だ。
田村准教授は15年間、渋谷駅の構造を調べてきた。渋谷駅の変遷を模型化し、あらゆる構造を分析した結果、興味深いことが分かったという。
「各路線間の乗り換え経路84パターンをすべて検証したところ、隠れた秩序があることが分かりました。乗り換えるときに必ず通る『リング』が見えてきたのです」
リングは2つ。上下移動のない平面リングと、階段などで上下する立体リングだ。すべての改札や連絡通路はどちらかのリングにつながっていて、ある路線から別の路線に乗り換えるとき、必ずこのリングのどこかを通る、というのだ。
さっそく2つのリングを歩いてみた。
まずは平面リング。JRのハチ公改札を左にして歩き、東急東横線を右手に見ながら宮益坂口に出る。ちょうどシュークリーム店がある辺りだ。東横のれん街を右手に見ながら歩いていくと、東横線の南口改札が見えてきた。右折してJRの南改札前を通り過ぎると西口に出る。右に曲がって歩くとモヤイ像があり、東急東横店西館の通路を抜けるとハチ公口に戻った。
次は立体リングに挑戦。ハチ公改札を左に見て歩き、東横線正面口のエスカレーターを昇る。正面改札のところで右に曲がり、右手にある階段を上る。左側にJR中央改札、右側に銀座線出口を見ながら歩き、突き当たりの階段を下り、すぐに右折。JR玉川改札を通り越し、右にある階段を下りるとハチ公口に出た。
どちらのリングも実際に歩いてみるとそれほど距離はない。5分ほどで1周できた。たったこれだけのリングだが、田村准教授によるとすべての路線への乗り換えルートが含まれているという。何とも不思議だ。
電車が到着するたび、リングの中は瞬間的に混雑する。しかしすぐに右へ左へと分かれていき、渋滞は長続きしない。「目詰まり」状態が起こらないのはリングのおかげなのだ。自然発生的に生まれた人の流れの輪はしかし、駅再編でなくなってしまう。今後は「アーバンコア」がリングの代わりということになりそうだ。