放置すると認知症にも…40代からは高血圧にご用心
更年期は、生理が終わる「閉経」をはさんだ前後10年間を指す。この時期は女性ホルモンのエストロゲンが激減するため、体にさまざまな変化が起こる。血圧上昇もその一つだ(図1、図2)。
「血管拡張作用があるエストロゲンが減ることで、血管の柔軟性が低下し、血圧が上がりやすくなる。そこに精神的なストレスや不眠などが加わると、一層血圧が変動しやすい。上がったり下がったりと不安定なのが、この年代の高血圧の特徴」と自治医科大学循環器内科の苅尾七臣(かりおかずおみ)教授は話す。
苅尾教授らはテルモとの共同研究で、更年期女性1058人を対象に更年期に起こりやすいホットフラッシュと高血圧との関係を調べた。その結果、ホットフラッシュのある人はそうでない人に比べて血圧が高い傾向にあり、特に喫煙者で顕著だった(図3)。
「ホットフラッシュは、以前から狭心症や心筋梗塞などのリスク因子だと報告されてきた。詳しい仕組みは分かっていないが、ホットフラッシュや喫煙の背景には、血管内皮細胞のダメージがあるのは確か。両者が重なると、血圧もさらに上がりやすくなる」(苅尾教授)
血管内皮細胞は血管の内側にあって、血管を広げる一酸化窒素(NO:エヌオー)を作り出す。この細胞が傷害されてNOが減ると、血管のしなやかさが低下し、血圧も上がりやすくなるわけだ。動脈硬化の第一歩は、この内皮細胞の傷害から始まるという。
「更年期の血圧は乱高下を繰り返しながら上昇し、やがて高止まりになることが多い。この血圧上昇の度合いを緩やかにするためにも、更年期のうちから血圧によい生活を始めることが重要。初期なら薬に頼らず、生活改善だけでも効果が期待できる」と苅尾教授は助言する。気になる人は、理想的な血圧(図4)を目指して生活改善に取り組むべきだ。
更年期は本格的な高血圧へ進むかどうかの分かれ道。だからこそ、早めの対応がものをいう。血圧にいい生活のポイントは、運動、睡眠、減塩、ストレス対処の大きく下の4つ。早速、今日から始めよう。
【1】 「緩急ウオーク」でNO(エヌオー)」を増やす
「血管しなやか物質ともいえる「NO」を増やすには、少し息が上がるくらいの有酸素運動が効果的」と苅尾教授。ウオーキングなら、脈拍が1分間に110~120回くらいまで上がる強度で10分間スタスタ歩き、その後5分間ゆっくり歩く。これを1日に合計30分間以上行うといい。
【2】 6時間以上の睡眠をとる
「睡眠不足の翌朝は、血圧が上がりやすい。少なくとも毎日6時間以上の睡眠を」と苅尾教授。日中は活動的に過ごし、夜はリラックスするリズムを。
【3】 減塩+カリウム豊富食を
食塩をとり過ぎると血圧が上がりやすい。減塩を心がけ、余分なナトリウムを排出するカリウム豊富な食品(海藻や緑黄色野菜、果物など)を。
【4】 ストレスには腹式呼吸を
ストレスがかかると交感神経が緊張して血管が収縮し、血圧が上がる。そんなときはスーッと口から長く息を吐く腹式呼吸を何度か繰り返して。
この人に聞きました
自治医科大学循環器内科、教授。専門は高血圧、動脈硬化など。「妊娠中に血圧が上がったり、尿にたんぱくや糖が出たりした人は、更年期以降、高血圧になりやすいので注意してください」
(ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2013年9月号の記事を基に再構成]
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