若者の街シブヤは「おとなの街」になれるかクリエイティブ・ディレクター 仲原正治

2012年4月18日に東京都は「首都直下型地震による東京の被害想定」を発表した。東京湾北部地震を震度7.3と想定した場合、死者は約9700人。帰宅困難者は約517万人に上ると算定している。渋谷区は震度6強である。こうした事態になった時に、渋谷駅周辺はどのようになるのか想像するだけでも恐ろしい。電車は動かないし、道路は車であふれかえるだろう。飲食店からの出火も考えられる。また、高速道路が駅舎の脇(六本木通りの上空)を通っていることもあり、複合的な惨事が起きないとも限らない。

一日中、人が行き交う夜のスクランブル交差点(撮影:2011年10月11日)

帰宅困難者が駅周辺に集まり、ごったがえすだろう。しかし、駅周辺には空地が見当たらない。近くにある公園というと、宮下公園がJR線沿いにあるが、そこも、避難できるような形状ではない。若者がスポーツを楽しむ場所として貸し出されており、避難設備があるわけではない。災害時に、どこへ避難すればよいのか、すぐには判断できない状態だ。避難場所としては代々木公園か明治神宮まで行かないと安心できない。

渋谷は、大雨による洪水についても日常的に不安がある。現在の渋谷駅で、JR、東急、地下鉄銀座線はいずれも高架になっているので、水没することはないと考えられる。しかし、半蔵門線や副都心線は、ゲリラ豪雨や台風などを想定して、どのような洪水対策をしているのか気になる。近くを流れていた渋谷川や古川は、現在は地下溝となり、地下にもぐって下水道幹線になっている。1時間当たり50ミリ程度の降雨によって発生する洪水に対しては安全であるように地下調整池や護岸工事を進めているというが、2010年のゲリラ豪雨の時には渋谷近辺のマンホールの蓋が飛んだ。

もっとも、都市のゲリラ豪雨対策は、渋谷だけではなく、様々な地域で問題になっている。特に、昨今の異常気象で、100年に1回の災害に対応できるという指標で作られた河川や下水道が次々に氾濫している現実を見ると、すべての面での見直しが必要になってきている。

ヒカリエは渋谷を大人の街にできるか?

渋谷の新しい開発のシンボルとして「ヒカリエ」がオープンした。マスコミもこぞって注目。詳しい内容は報道発表に任せるとして、私は文化芸術の視点からコメントしたい。

昨今の傾向として、都市再開発に際して文化芸術関連の施設を併設するのは王道である。溜池・アークヒルズのサントリーホール、六本木ヒルズの森美術館、東京ミッドタウンのサントリー美術館、丸の内の三菱一号館美術館など、枚挙に暇(いとま)がない。再開発に伴って、美術館やコンサートホールを併設することで、文化的なイメージの向上と集客を狙っている。

ヒカリエ

ヒカリエでは、11階~16階に、客席数1972席の「東急シアターオーブ」というミュージカルを中心とした劇場が誕生した。運営は、東急文化村が担い、Bunkamuraのノウハウをここで発揮することになる。2012年7月18日からこけら落としでブロードウェイミュージカルの「ウエスト・サイド・ストーリー」を上演している。

核となる文化芸術施設を入れることで、街の豊かさや企業のイメージを高めるという効果を期待している。同時に市民の鑑賞の機会を多くするという点で、こうした手法は評価できる。しかし、事業採算性という点では、様々な課題を抱えている。森美術館ではコレクションを持たずに、企画展を中心に展開し、事業採算性を確保するために、展望台に上る料金を含めた入館料を設定し、その利益を美術館の運営に充てている。さらに、美術館は企画が当たれば、数十万人の入場者を期待できるが、ホールは限られた人数の観客しか動員できない。シアターオーブの場合、良い企画を続けても、約2000人が1回の最大のキャパシティーなので、基本的にはその収益で採算をとることになる。観客が少なければリスクは大きくなる。これを観客の料金に転嫁して、観劇に高額な料金を設定してしまっては、イメージが低下する。

良いイメージを発信し続けるためには、企業が支援をしていくことも必要になるだろう。オープン当初は、こうしたことに対して支援がしやすいが、時間がたち、不況になると企業も文化支援を止めてしまうことが往々にしてある。支援していく構図を長続きさせるような工夫、たとえば基金をつくるなどの工夫が必要になる。このヒカリエが中心になり、今までの渋谷と少し違ったイメージ、「大人が遊べる街」を打ち出せればよいと思うが、これもシアターオーブが、どのようなすてきなプログラムを提供していくかにかかっている。

道玄坂、公園通り付近が作ってきた“若者の街”のイメージを継続しつつ、ヒカリエがつくり出していく新しい“大人の街”のイメージを共存させる―。渋谷という場が人をひきつけ、さらなる発展をしていくためには、文化活動の継続が欠かせない。東急には末永く、がんばってもらいたい。

[ケンプラッツ編『SHIBUYA202X 知られざる渋谷の過去・未来』(日経BP)を基に再構成]

[参考]ケンプラッツ編『SHIBUYA202X 知られざる渋谷の過去・未来』では、再開発が本格的に動き始めた渋谷の駅と街の成り立ちから、現在進行中のプロジェクトの詳細、未来像について詳細に分析、解説している。
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/plus/20120702/574350/

SHIBUYA 202X - 知られざる渋谷の過去・未来

著者:
出版:日経BP社
価格:1,890円(税込み)

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