「住民ゼロ」で問題先送り
正式な住所がないことで支障はないのだろうか? 中央区に聞いてみた。「警察や消防はショッピングセンターとの間で個別に相談して管轄を決めているので特に問題は起きていません。住んでいる人がいないので住民税は発生せず、固定資産税や事業税は東京都の管轄です。もちろんこのままでいいとは思っていませんが、今のところ困っていないので……」
かつては区議会で激しく議論されたこともあったが、ここ30年ほどは千代田区や港区との話し合いもない。「いずれ建て替えなどが発生したときに問題が出てくることもある」(中央区総務課)とはいうものの、当面は「住所不定」の状態が続くようだ。
同じことが、高架下で営業する近くのショッピングセンターにも当てはまる。宝くじで有名な西銀座チャンスセンターがある「西銀座」や「銀座ファイブ」は中央区と千代田区の境界にあり、「銀座ナイン」は中央区と港区との間で同様の問題を抱える。しかもどこも中央区入りを希望している。やはり銀座ブランドの魅力は強いのか。
銀座への改名が映す街のブランド力
調べてみると、実はこれらのショッピングセンターは、かつては違う名前で営業していたことがわかった。
銀座インズは1958年、「有楽フードセンター」という名前で開業した。1958年といえばフランク永井の「有楽町で逢いましょう」が大ヒットした年。当時の新聞広告では「千代田区有楽町0番地」とうたっている。有楽町にブランド力があったのだ。これでは千代田区が「領有権」を主張するのも無理はない。表記が変わったのは1990年。銀座INZ(インズ)と改名した。当時の新聞は「銀座の中心的な場所に」との命名理由を伝えている。
一方、1961年開業の銀座ナインは、1985年までは「新橋センター」の名前で営業していた。担当者によると「銀座に新たに9丁目を造る意気込みで命名した」とのこと。名称の変遷は、街のブランド力の変化を如実に物語る。