「女性役員3人」がプラスに働く理由
女性活用&業績アップの決め手(4)
「女性役員が3人以上」――、日経マネーなでしこ銘柄10社のうち、半数に上る企業に女性役員が複数いることがわかった。その他の企業も執行役員まで含めると最低1人は女性が役員に名を連ねている。東洋経済『役員四季報2013年版』の調べによると、上場企業のなかで女性役員が1人でもいる会社は14.8%、このデータに照らしてみると、なでしこ銘柄企業では女性役員の登用が進んでいることがわかる。
安倍首相は2013年春の成長戦略のスピーチのなかで「上場企業に女性役員を最低1人」とうたったが、こうした目標はすでに達成し、さらに一歩先をいっている。ところで安倍首相の提言に対しては「女性1人ではつぶされかねない」という声も上がった。なでしこ銘柄企業をみると、女性役員が複数名いるプラスの面も見えてきた。
「(役員会で)女性1人だった頃は、プレッシャーが大きかった」。ポーラで女性役員第1号となった小西尚子さん(55)は、こう振り返る。今では生え抜きから取締役2人、執行役員2人、計4人の女性役員が誕生し「ほっとしている」という。
「女性は年を重ねるほど、美しくありたいという気持ちが強くなるもの」
ある会議で小西さんがこう発言したところ、他の3人の女性役員も「そうだよね」と相づちをうった。
女性ならではの感覚的な意見でもうなずき合えることで、「より自信をもって発言できるようになった」と小西さんは言う。
数の論理は大きい。同社で2014年1月に取締役に就いた竹永美紀さん(45)の場合は、すでに小西さんの背中が見えていて「何の抵抗もなく、部長そして役員へと階段を上がっていった」と気負いなく語る。
女性役員が1人だと「1人の意見が女性代表と見なされてしまう」こともあるが、複数人いれば、女性の多様な声を役員会に届けることができる。ポーラでも4人の間で意見が割れることがあるという。それぞれが部長時代に、百貨店の販売チャネルを切り拓いたり、高級ブランド化粧品をヒットにつなげたり、訪問販売に新しいマネジメント手法を確立したりと、異なる分野で実績を上げてきた。当然ながら視点は異なる。「次世代のポーラレディを育てないといけないといった大きな目標では共振するものの、ではどうするかという政策論では違う意見をもっている」(竹永さん)。3人以上いれば「三者三様」、それぞれの個性を発揮することができるのだ。
欧米の取締役会に詳しく、この2月に東京で女性取締役の育成講座を開いた社外役員の人材紹介会社プロネッドの酒井功社長は「米国では役員会に少なくとも女性を3人入れようという動きがある」と言う。なぜ3人なのか。組織のなかで、あるグループの人員が3割以上になると影響力を持ち始めるという研究が知られている。欧米では取締役は10人ほどのケースが多く、女性役員が3人以上いれば影響力が強まる。「マジックナンバーは3だ」と酒井さんは言う。
後輩に多様なキャリアコースを示す
女性のキャリアは、結婚や出産・子育て、また夫の転勤などでいくつものコースに分かれていく。複数人の女性役員がいる企業では、後輩社員に様々なロールモデルを示すことにもつながっている。
2013年秋、高島屋は創業180年超の歴史のなかで初めて代表権のある女性取締役が誕生して話題を呼んだ。代表取締役専務となった肥塚見春さん(58)は、20代のときにいったん夫の海外勤務で退職をしたのちに再雇用された。その後は子供3人を育てながらキャリアを重ねてきた。また2013年に執行役員に就いた人事部長の中野奈津美さん(50)は、男女雇用機会均等法が施行されてから入社した「均等法一期生」であり、30歳の若さでセールスマネジャーに就いた。役員一歩手前をみると、大型店の店長を務める女性管理職も複数人おり、後輩には女性の様々なキャリアコースが目に入る。
カルビーに2013年春に誕生した3人の女性執行役員も、キャリアの道のりが異なる。人事総務本部長の江木忍さん(53)は教師を経ての中途入社、IR本部長の早川知佐さん(45)は、金融機関や化粧品会社などを経ての転職組でいずれも独身、中日本事業本部長の福山知子さん(46)は新卒入社で子供2人を育てながら短時間勤務を続けてきた。
ひとくちに女性役員といっても、キャリアもライフコースもさまざま。そうした多様なロールモデルこそ、若手社員にとっては仕事を辞めずに続ける上での原動力となる。
女性社外取締役を登用する意味とは?
なでしこ銘柄企業の女性役員の一覧をみてほしい(表1)。女性を社外取締役として迎える企業が10社中6社、女性社外取締役の登用度もまた高い。
顔ぶれをみると、高島屋には評論家の大宅映子さん(73)、三菱UFJフィナンシャル・グループには早稲田大学教授の川本裕子さん(55)といった著名人の姿も目立つ。また、中外製薬には提携先のロシュからソフィー・コルノウスキー・ボネさん(50)、カルビーは米ペプシコのAMEAシニア・バイスプレジデントのユームラン・ベバさん(49)と、外国人女性の名前も挙がる。
社外でキャリアを積んだ女性を役員に迎えることは、社内の「常識」を問い直すきっかけになる。また女性社員に、これまでにはないロールモデルを提示することにもつながる。
中外製薬ではボネさんが来日した折、本社でダイバーシティ意見交換会を開いた。エジプトとポーランドにルーツを持つボネさんは、これまでパリ、ニューヨーク、イスラエルのテルアビブなど世界各地で仕事をしてきた。「取引先が部下の男性とばかり話したがることもあった」といった苦労も披露しながら、キャリアを形成するには「良い上司を探すことだ」と語りかけた。また子育てしながら仕事を続けるため「朝8時から夜の7時くらいまで食事抜きで仕事をする、出張は月に7日まで」といったルールを決めているという。ボネさんは「仕事をしながらの子育てを諦めないで」と中外の女性社員らに繰り返した。
売り上げの8割が海外というブリヂストンもまた、役員会を多彩な人材で構成する。役員は社内・社外が半々で、社外取締役には2人の女性が加わっている。そのうちのひとり、橘・フクシマ・咲江さん(64)は、かつてコーン・フェリー・インターナショナル米本社の取締役を務めていたとき、社外取締役の重要性を痛感したという。
「この業務はどんな方向を目指しているのか」
「なぜ社員の給料がこんなに高いのか」
社外取締役から根本的な問いが投げかけられることで「無意識に進めていた業務の『暗黙知』や、社員の『既得権益』を洗い直すことにつながった」。これこそが社外取締役が求められる理由だという。「オールド・ボーイズ・ネットワークと呼ばれる従来の男性型ネットワークに無縁の女性は『暗黙知』に疑問を投げかけることが多く、既得権益にも縛られない」として、社外取締役を女性が務めることで企業の不祥事を防ぐ防波堤になりうるという。
今回、なでしこ銘柄の「女性活躍推進度」と「財務」の関係を分析したところ、「女性管理職登用度」が高いほど財務状況がよく、特に「効率性」「成長性」が平均を上回ることは、連載2回目で述べたとおりだ。女性管理職登用の中で、大きな柱となるのが女性役員の登用である。
なでしこ銘柄の多くは、女性の執行役員や社外取締役など、さまざまな立場で複数の女性役員を登用している(表1)。単に内部昇格が間に合わないため外部から女性役員を招いて「数合わせ」をするのではなく、女性の登用を経営戦略として考え、競争力につなげようという姿勢がうかがえる。「(女性役員比率の高さは)取締役会が開かれている、先を見ている証拠。あるべき姿を追求する姿勢が、業績に結び付いているのではないか」とフクシマさんは見る。なでしこ銘柄企業の多くが女性役員を複数名登用し、好業績を上げているという事実が、それを物語っている。
(日経マネー 野村浩子)
[日経マネー2014年1月号の記事を基に再構成]
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