朝ドラのヒロインを経験すると、なぜ女優として大成するのか日経エンタテインメント!

感覚は、毎週長時間ドラマ

さらに、初日からクランクアップまで、万里の長城のごとく立ちはだかるのが「量の壁」だ。

民放ドラマなら、1話約46分で3カ月13回放送したとして約10時間。一方で朝ドラは、1日15分だが週6回で90分、半年間全156話で約39時間。民放ドラマの4倍近い放送時間だ。

週単位で見ても民放ドラマの約2倍の放送時間だから、女優は2倍の量の台本を覚え、2倍のスピードで撮り進めていく必要に迫られる。1話15分と短いだけに、サブストーリーや群像劇を長く見せることは難しく、その分ヒロインは画面に出ずっぱりの状態になる。

図2 実働15時間前後という日々が約8カ月。スケジュールによってはリハーサルの時間を取れず、いきなり本番というのも少なくない。木曜日はリハーサル日になることも。「広報活動」とは、ポスター撮影や各種媒体取材、ドラマゆかりの地でのイベント参加など。セリフを覚える時間を捻出するのはひと苦労だ。

初めて朝ドラに出演する俳優やそのマネジャーがたびたび口にするのは、「まるで会社に就職したかのよう」という感想だ。毎日NHKに通い、月曜には必死にセリフを覚えてリハーサルを行い、火・水・木・金に撮影。朝9時にスタートし、深夜0時をまわることはザラだ。土日は基本オフというが、ロケがある場合はここにあてられる。ロケがない場合でも取材やイベント出席など、次々舞い込んでくる広報活動が待ち構えている(図2)。このペースに驚くのは、新人女優よりむしろ、多くのドラマ出演経験を持つベテラン女優だという。 「芝居というのはある種の運動神経にも似て、毎日やり続けることで一気に伸びる瞬間があるし、しばらくやらないと感覚が鈍ったりもする。朝ドラは、毎日カメラの前に立って芝居をするのが8カ月続くわけですから、役者人生において貴重な体験になるのだと思います」(遠藤氏)

ドラマ終盤戦を迎えたヒロインが、開始当初よりはるかに成長したように見えるのは、役作りやメイクによるものだけではなさそうだ。実際、初日とクランクアップのころでは「別人の表情を見せる女優も少なくない」(同)という。多くの候補者がしのぎを削る中からただ一人選ばれ、演技・方言・職業・所作など数々のトレーニングを積み、親より年上の名優に囲まれながら、民放連ドラより週に2倍多い台本を覚え、8カ月毎日カメラの前で芝居を続ける。この経験を通じて、台本の読み方ひとつから芝居に対する姿勢まで、あらゆる面で成長を促すのが、この“朝ドラ道場”なのだ。

秋から放送される次作「純と愛」のヒロインは、22歳の夏菜(なつな)。朝ドラヒロインのオーディションに過去2回落ち、今回3度目の挑戦で選ばれたことを、3月の会見で笑顔で告白している。

(日経エンタテインメント! 木村尚恵、ライター 日高郁子)

[日経エンタテインメント!2012年6月号の記事を基に再構成]

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