お国柄でこんなに違うルネサンス絵画日経おとなのOFF

華やかなりし頃のギリシャ、ローマの芸術を復興させるべく起こったルネサンス。芸術家たちは写実的で理想的な調和を重視し、ハイレベルな表現を生み出した。その絵画芸術は、フィレンツェから近隣の宮廷都市やヨーロッパの各国へと伝わり、ユニークな個性を持った名品が次々に生まれていった。

イタリアルネサンス 線のフィレンツェ、色のヴェネツィア

フィレンツェに発したルネサンスは、15世紀後半頃から周辺の都市へと波及していく。なかでも、ヴェネツィアは東方とヨーロッパ諸国とを結ぶ貿易の都として栄えており、芸術が発展する基盤が整っていたといえる。

「16世紀初頭にヴェネツィアは、フィレンツェ、ローマと肩を並べる美術の中心地になりました。ティツィアーノを筆頭とする画家たちは、ヴェネツィア派と呼ばれています。フィレンツェ絵画と、ヴェネツィア絵画との違いは、彼の絵を見ればよく分かると思います」と成城大学教授の石鍋真澄さんは言う。

この時代の絵画は、デッサンによる下絵を作り、その構図通りに絵の具を塗っていくという手順が一般的だった。フィレンツェ派はこの方法に従っていたが、ティツィアーノはいきなりキャンバスに下塗りを開始。制作途中で構図を変えることもあったという。

「きっちりデッサンして、そこに色をつけていったラファエロなどと違って、ティツィアーノはしばしばキャンバスにじか描きしました。感覚的に描いたのです。素描のフィレンツェ、色彩のヴェネツィアというわけです」(石鍋さん)。

~フィレンツェ 安定した構図と、丁寧なデッサンが身上~

サンドロ・ボッティチェルリ Sandro Botticelli(1445~1510)
初期ルネサンスを代表する画家。優雅な線描が持ち味で、繊細かつ上品な印象を与える。

~ヴェネツィア 豊かな色彩と、遊び心ある筆致が魅力的~

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ Tiziano Vecellio (1490頃~1576)
奔放な筆遣いと華やかな色彩が特徴の、ヴェネツィア派最大の巨匠。神話を題材にした、官能的な裸婦の展開も積極的に行った。
ティントレット Tintoretto (1518~1594)
自由な筆触や明暗対比は、フィレンツェ派には見られない。デフォルメされた人体表現もインパクトがある。

ヴェネツィア派のティントレットは、ティツィアーノ以上に感覚的。ねじれた人体表現で、画面にインパクトと動きを与えた。

「たとえ古代神話などという口実があったにせよ、女性のヌード、その官能性に対するルネサンスのイタリア人の寛容さには驚かされます。例えば、スペインやイギリスではほとんど描かれません」。

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