図5 平面リング
図4 立体リング

9路線の電車の発着とともに潮の満ち引きのように、人の流れが常に生じている渋谷駅は、波が奏でる9重奏の音楽のようである。自然と秩序が生じて、自分自身で幾何学的なパターンの構造を生み出して組織化していく「自己組織化」のような現象が、渋谷駅にあるのではないか。隠れた秩序が驚異的な数の人々をさらりとさばいているのではないか―なんて考えていた。

改めて前述の渋谷駅構内移動全ルートを記した図3を見ていただこう。そこには二つのリングが見える。ここでは、立体リングと平面リングと呼ぶ。二つのリングは一部が重なっているため、位相幾何学的には「二つ穴のトーラス(ドーナツ)」を形成している。それらが図4図5図6である。

改札や連絡通路は2つのリングに連結

図6 渋谷駅内の「整流器」

立体リングは時計回りに、ハチ公口→ハチ公改札前→右の大階段を上る→東横線正面口→右の大階段を上る→JR中央改札前→突き当りの階段を下る→豆乳スタンドバーを右に曲がる→JR玉川改札前→銀座線につながる階段を下る→右に行けばハチ公口、とたどるルートである。地上1階から地上3階レベルまで行き、また地上1階レベルへ戻るので、立体リングと名付けた。

平面リングは時計回りに、ハチ公口→宮益口を右へ→のれん街を右手にまっすぐ行く→東口→東横線南口改札前→JR南改札前→西口→右に曲がる→みどりの窓口前→東急百貨店の中を通り過ぎる→ハチ公口、とたどるルートである。地上1階レベルを一周するので、立体に対して平面リングと名付けた。

次々に、入っては出て、出ては入って、環ができる

 すべての路線の改札や連絡通路は、何らかの形でリングに連結している。しかも、山手線、銀座線、東横線、田園都市線・半蔵門線については、どちらのリングにも接続しているのだ。このドーナツが渋谷駅の緩い導線の骨格であるといっても過言ではない。渋谷駅で迷ったときに起こる、前述のシュールな体験は、二つのリングと少なからず関係がありそうだ。

連絡通路など導線になるインフラがあって、それに従ってただ人が流れているだけであるという面はあるだろうが、逆に人の流れがインフラを造らせたとも考えられる。「鶏が先か卵が先か」的な議論と同じ考え方である。

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二つのリングは失われるか