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揺れる欧州、女性役員クオータは要らない?

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NIKKEI STYLE

 2020年までに社外取締役の40%を女性にすべし――。いま欧州ではこんな指令案を欧州連合(EU)全体で導入するかどうかで揺れている。経済団体が強く抵抗し、ドイツ、英国、さらには北欧までが反対派に回っている。議論の背景にあるのは何か、日本にも何らかの影響はあるのか。現地で賛否の声に耳を傾けてみた。

「げたをはかせてもらって昇進したと思われたくない」(女性管理職)

「外から強制しても、組織の文化は変わらない」(経済団体男性マネジャー)

「変化のスピードを上げるためのツールとして必要だ」(女性経営者)

欧州はいま、女性役員クオータ制(割当制)の導入を巡って揺れている。2013年秋、「EU域内の大手上場企業は2020年までに社外取締役の40%を女性にすべし」という指令案が欧州議会で圧倒的多数で可決され、理事会の決定を待つところとなった。EU加盟国を平均すると2013年時点で16.6%の女性役員比率を、2020年までに40%にまで引き上げようというものだ(図1図2)。経済団体や経営者からは反対の声が上がり、EU加盟国も国によって意見が分かれている。

賛否の声に耳を傾けると、意外にも推進派の女性らは異口同音に「最初はクオータ制には反対だった」と言う。「げたをはかされて昇進したと思われたくない」というのが、その大きな理由だ。2006年から社外取締役を務めてきた経営戦略コンサルティング会社社長のクリスティーナ・ビィッシニ氏もそのひとり。4年前、ビィッシニ氏はある取締役会でクオータ反対の持論を覆すような体験をした。

変化のスピードを上げるため、1回だけボールを蹴る

「なぜ役員会に女性が、しかも外国人がいるんだ」

ある中堅エンジニアリング会社の社外取締役に就き、最初の取締役会でのこと。役員会の議長が、彼女の顔を見てこう発言した。役員に多様な人材を迎えて役員会を強化しようとしたオーナー経営者から、ビィッシニさんは社外取締役として招かれた。エンジニア出身で豊富な海外ビジネス経験を買われての就任だった。ところが、国内ビジネスには精通しているものの海外ビジネスの重要性が増していること、また業界が多様化していることをあまり意識していない議長には不快だったようだ。

その後ビィッシニさんは、「議長に恥をかかせないように」時には念入りに根回しをして、社内の各部署と対話を重ねて海外ビジネスの立ち上げに貢献した。最終的には役員会でも認められるところとなった。こうした経験を通して「クオータを有効なツールとして変化を起こさないといけない」と考え始めたという。

各国の上場企業の女性役員比率(左)・日米欧の女性役員比率の推移(右)

米国でダイバーシティ推進(多様な人材活用推進)を手がける非営利団体カタリストの元代表アイリーン・ラング氏は、「自然のままの変化にゆだねておくと、役員会レベルでの男女均等を実現するには70年かかる」と2005年に発言している。EUもまた「現状の増加率では役員会で適切な男女バランス(少なくとも男女が40%ずつ占める)を実現するには40年以上かかる」と、2012年のデータをもとにコメントを出した。「変化を加速させるツールが必要だ」というのが、ビィッシニさんら推進派の主張だ。

クオータ導入を押し進めてきた原子力改革監視委員会・副委員長のバーバラ・ジャッジ氏もまた「クオータという方法には問題もある」としたうえで「変化を促すために、ボールをあるべき方向に1回蹴る必要がある。ただし1回だけ。それがクオータ制だ」という。

女性役員を一定割合に引き上げるよう企業に強制するのは正しい方法ではないとわかっている。しかしそうでもしないと変化のスピードは上がらない、あくまで「期間限定」で変化を加速するツールとしてクオータ制を使うということだ。

ところで取締役の40%を女性に――というと驚くかもしれないが、取締役といっても社外取締役のこと。そもそも日本と欧米では役員会の成り立ちが違う。欧米では事業を統括執行する執行役員と、経営の意思決定と監督を担う取締役が明確に分かれていて、取締役は少なくとも社外が半分以上、中には10人中9人が社外取締役という例も珍しくない。EU指令案では、この社外取締役の4割以上を女性にしようというものだ。なぜ社外取締役なのか――。

「内部昇格の執行役員にまで割当制を導入するのは経営課題に立ち入り過ぎ。株主に対して会社の顔となる社外取締役は女性登用のシンボルともなる」と指令案作成を手がけた担当官は語る。

経済団体は大反対。ドイツは情報開示の義務化で女性役員を増やす

女性役員クオータ制を導入すると、はたして企業の業績は上がるのか。クオータ制を導入して5年以上が経つノルウェーに関する数々の調査をみると、プラスに働いたというもの、マイナスに作用したというもの、正反対の分析結果がほぼ同数あるといわれている。

経済団体を筆頭とする反対派は、企業にとって足かせになるとみている。ドイツ経済連合BDIの職員は「経済危機からようやくはい上がってきたのに、クオータなどを導入したら経済的にマイナスの影響が懸念される。中小企業にとっては情報開示の作業など多大なるコストになる」として「クオータ制には反対だ」と強い口調で言い切る。

「ドイツは独自のやり方で成果を上げている、口出しをするな」というのも、もう一つの大きな理由だ。ドイツでは2011年から上場企業に女性役員など登用の目標数値と達成度合いを年次事業報告書で報告することを義務付けている。DAX30と呼ばれる優良30社は「女性役員を増やします」という宣言を出し、その後3年で女性役員比率を13%から21%へと2倍近くまで引き上げた。昨年冬に誕生した連立政権では社会民主党が「2017年までに女性役員30%」というクオータ導入を公約に掲げ、正式に導入するか議論を進めているところだ。

欧州の経済団体の連合体であるビジネスヨーロッパもまた、EUクオータには反対の立場だ。ジェロム・ショウバン副会長は「ノルウェーの女性役員クオータは失敗している。クオータ導入で変わったのは上の層だけ。外圧を加えても組織の意識は変わらない」とみている。

今回のクオータ指令案は、業界や国によって違う個別事情はさておき、一律に女性役員40%への引き上げを課すもの、これも問題だという。鉄鋼業界と化粧品業界では、そもそも女性比率も大きく違う。また国によっては数値目標の開示を義務づけるなど、取り組みは異なる。ドイツやフィンランドなど独自の施策で成果を上げつつある国にとっては「EU統一のクオータは最悪だ」。

EUクオータ指令案は、ノルウェーのように役員会に女性4割を達成できなければ解散命令もあり得るといった厳しい制裁を科すものではなく、ソフトなアプローチで変化を促す。役員に空席ができたら次の候補を男女半々にすることとする。そうした情報開示をしない企業に対する制裁は、公共調達の対象企業から外す、補助金・助成金を打ち切る、課徴金をかけるといったものを各国で定めることになる。とはいえ「EUクオータの押しつけは各国の企業統治(コーポレートガバナンス)に改正を迫るものだ」とショウバン氏は批判する。

EU加盟国のなかでも、賛成派はフランス、イタリア、ベルギーなど。反対するのはドイツ、英国、北欧諸国などだ。賛成国は既に自らクオータ制を導入済みで「2020年に女性役員40%は達成する見込みだから何ら影響はない。規制で変化を促すのは有効だ」とする。女性登用が進んでいる北欧が意外にも反対に回るのは、独自に取り組んでいるからEUで一律の規制をされたくないといった主張だという。

社外取締役への引き抜きは、内部昇進の芽を摘んでしまう?

キャリア形成という視点から「クオータ制は間違っている」と言うのは、ベルギー・ブリュッセルでEUコンサルティング会社アビザ・パートナーズを経営するジャック・ラフィッテ氏だ。ラフィッテ氏の知人に、こんなエグゼクティブ女性がいたという。

極めて優秀な女性マネジャーで、あと一歩で執行役員になれる、いずれは経営トップも目指せる人材だったが、あるとき社外取締役として引き抜かれてしまった。女性社外取締役をクオータ制で増やすという機運のなか、あちこちから声がかかり、今では4つの会社の社外取締役を務め年収はかつての4倍にも膨らんだ。

これがはたして彼女のキャリアにとってよかったのか、とラフィッテ氏は問う。「社外取締役とはしょせん、部外者。組織の実行部隊を動かして実績を上げる内部昇格の執行役員、そして経営トップこそ女性が目指すべきキャリアではないか」と言う。「必要なのは、女性の社外取締役を増やすことではなく内部昇格の執行役員、そして経営トップを増やすことにつながる施策だ」というのが、ラフィッテ氏の主張だ。

推進派に言わせれば「もちろん内部昇格の女性役員を増やすべきだが、時間がかかる。まずは社外取締役を増やすことから始めて、組織内部に刺激を与えていく」というアプローチだ。しかし「社外取締役として引き抜かれる女性が増えることで、内部昇格の芽をつぶす……そうした可能性も否定できない」と、ある女性経営者は小さな声で同意した。

経済危機を救うために、女性役員の活躍が求められる

ところで、なぜ今EUクオータ制なのか。欧州委員会副委員長のビビアン・レディング氏が、民間企業に対して「女性役員を2020年までに40%」とする取り組みを求め、翌年の目標達成度合が低ければEUで法制化も検討すると打ち上げたのは、欧州経済危機から間もない2011年3月のこと。ドイツ経済連合BDIの言葉を借りれば、そんな余裕はなかったはずだ。ところが指令案づくりを手がけた欧州委員会男女平等局の課長、ダニエラ・バンキエ氏は「役員に多様な人材がいれば企業統治も効いて、欧州経済危機を未然に防げたはずだ。まさに経済危機をきっかけに、女性役員クオータが必要だという議論が高まった」と、真っ向から反対の意見を述べる。

女性役員の登用は一握りのエリート女性に限る話ではない。女性活躍推進のひとつのシンボルでもある。そこでクオータ制導入は、バンキエ氏によれば大きく3つの効果があるという。

ひとつは、女性役員という「希望を見せて」女性を労働市場に定着させること。2つ目は、消費を決定するのは女性が8割といわれるなか、企業の意思決定の場に女性を増やすことは利益増そして経済活性化につながること。3つ目は女性役員が多い企業ほど業績向上が望めるということだ。経営コンサルタント会社マッキンゼー&カンパニーは、女性役員の登用と業績には正の相関があるという分析結果を出している(図3)。女性の役員比率が高い企業は、役員が男性のみの企業に比べると、ROE(株主利益率)が41%高いというものだ。

これに加えて、先のビィッシニ氏は「欧州単一市場をつくる上でも、EU共通のクオータ制が必要だ」という意見だ。上場企業も金融市場も国際化するなかで、経営能力の高い人材を国境を越えて採用して生かしていくことが必要だと言う。

[注] 1:第1四分位:取締役会に占める女性の割合が当該業種において最も高い上位25%の企業グループ
2:ROE:279社の2007~2009年の期間について平均を算出
調査範囲は、欧州6カ国(イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、ノルウェー)およびBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)出所:McKinseyウェブサイト

今後、クオータ制の成立の見込みはどうだろう。推進派のひとり、欧州議会社会民主党のエビリン・レグナー議員は「年内の成立をめざす。秋には欧州委員会に女性政策を専門とする局を立ち上げたい」という。現時点では、成立するか否か政治的要因に左右され判断しかねるというのが大方の見方だ。ところが、正式決定を待たずにその効果は既に表れ始めている。「EUクオータ指令案を出した途端に各国が取り組みを始め、加盟国がすでに独自にクオータを導入し始めている」(バンキエ氏)。指令案の提示が、大きな外圧となったわけだ(図4)。

ところで、EUクオータは日本にとっても外圧となるのか。むろん法制上は欧州市場に上場している企業にしか影響はないわけだが、「EUクオータを議論すること自体、日本に何らかの波及効果をもたらすのではないか」とビジネスヨーロッパのショウバン氏は言う。また「EU域内の企業向けの指令であっても世界的にインパクトがあるはずだ」とレグナー議員はみている。2020年、日本企業のトップが取引先の欧州企業と会議をするとき、居並ぶ役員の半数が女性だとしたら何を感じるだろう。

欧州の経済団体を束ねるビジネスヨーロッパの新会長に、イタリア人女性のエンマ・マルチェガーリア氏が就いた。フランスでも経済団体のトップは女性である。翻って日本を見ると、経団連に女性初の会長が誕生するのは何年先だろう。欧州のクオータ制をそのまま日本に取り入れて成功するとは思えない。しかし情報開示の義務化などで変化を加速しなければ、日本は先進国の中でガラパゴス化してしまうのではないか。自然な変化に任せていては、男女のバランスのとれた役員会が実現するのに70年どころか100年かかるのではないか。思い切った刺激策が必要なのは、実は日本のほうかもしれない。

欧州では各国で女性役員クオータ制導入が進む
ノルウェー2008年以降、上場企業に40%以上
フランス2017年までに、従業員500人以上の上場・非上場企業*に40%以上
スペイン2015年までに、従業員250人以上の上場企業に40%以上
イタリア2015年までに、国営企業、上場企業に33%以上
ベルギー 2019年までに、国営企業、上場企業に33%以上
オランダ2016年までに、従業員250人以上の有限責任会社*に30%以上

図4 *年商や保有資産などの条件もある

(日経マネー 野村浩子)

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