食の未来拓く産業に 完全養殖クロマグロの意味ホントが知りたい食の安全 有路昌彦

沖だしでは、イケスの確保も大きな問題です。

ちょうどよい漁場は限られており、どこにでも出してよいというわけではありません。区画漁業権の壁が存在し、今は別の企業が沖だしイケスを確保して「中間種苗育成」をするという新しい生産ラインもできました(中間種苗育成の一部を豊田通商がしています)。

また、人工種苗を用いた成魚生産も、双日が行うなど、様々な大手企業との「協働」によって成立するビジネスに育っていっており、クロマグロの完全養殖は、ラボ研究のレベルから十分実用の世界に入っていっています。

食の未来の答えがある

大阪市北区の「グランフロント大阪」にあるレストラン「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」では、近畿大学が養殖したマグロを食べられる

クロマグロの完全養殖は、かつて世界中のあらゆる研究者が「不可能」といったのを可能にしたもので、水産増養殖の世界では、本当にすごいことです。

しかも、安全で極めておいしい。よく研究で食べていますので(官能検査といいます)味はよく知っていますが、しっかりねかせると、驚くほど濃厚な味です。

ではこういった不可能を可能にできたのはなぜなのか、と考えるところに食の未来の答えがあるように思います。食のあらゆる問題を解決するには、技術の発展が必要であり、それも実学として産業に使える必要があるからです。

それには3つの要素があります。

1つ目は、粘りです。30年以上にわたって研究を続けてきた技術員や研究者の意地でしょう。それこそ事業仕分けされそうな「芽が出るのに時間がかかる」ものだったのに、今ではダイヤモンドと化しています。

2つ目は蓄積だと思います。産業化はたくさんの技術を集積です。あらゆる場面で問題を解決するために試行錯誤して生まれます。その技術の蓄積がひとつの場所でできたのは成功の要素でしょう。

3つ目は、明確なビジョンだと思います。こうしたい、こうありたい、実現したいという夢が、実現の原動力になっているのだと思います。

近大農学部水産学科の教員になってよくわかったことがあります。実はこの3つの要素は大学全体に「素地」としてあって、その証拠に、近大水産の成果は決してマグロだけではないのです。みなさんが口にしている、ブリ、マダイ、カンパチ、シマアジといったポピュラーな寿司刺身のネタのほとんどの養殖技術は近大によって完全養殖産業化がもたらされ、現在行われている養殖手法の多くの基本になっています。

その結果、増養殖の世界では世界1位の研究機関となり、国内だけでなく世界の食も支えようとしています。

有路昌彦
近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。

[ecomomサイト2013年1月15日付記事を基に再構成]

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